Fujikawa(1)
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2006年度卒業研究 (2007.5.)
 
 「核磁気共鳴装置の建設と
   応用エレクトロニクス」

  
2006年度 卒業研究生  
   下澤秀範,田川正計,田中芳典,塚本 雄,萩尾 健
   原田秀隆,福田 祐,前川幸一,松田貴則,諸熊隆博,
   
吉田圭祐,吉永光良,米光孝行
   
               以上13名
(善明研と合同)

              卒業お祝いコンパ (2007.3.25)

§1.序論 −卒業研究の目的−
1.エレクトロニクス
 
電子情報工学科では授業で電気回路や電子回路を先頭にたくさんのエレクトロニクス回路を習います.しかし,それだけでは現実に動いている実際回路との間に大きいギャップがあります.
 第1に,授業で習う回路はあくまでも基本的な回路に限られますが,実際回路の回路図ははるかに複雑な回路です.
 第2に,授業で習う理論がよく理解できても,それだけでは実際の回路を作ることは出来ないという点です.実際に回路を作って問題なく動作する回路を作るためには授業では習わないいろいろな知識や技能・技術が必要なのです.
 当研究室の卒業研究は以上のような点に対応したものです.
 まず最初に,各人がそれぞれ基礎的な回路を製作します.エレクトロニクスの基本であるエミッタ接地増幅回路に始まって,基礎的なエレクトロニクス回路をいくつか製作します.その過程でいろいろな問題が現れ,1つ1つ解決していく課程でいろんな知識や技能・技術を身につけることできます.
 次に,基礎エレクトロニクス回路の製作を通じて得た知識や技能・技術を元に,各人が高度な応用回路を作ります.応用回路の回路図は一見複雑に見えますが,実は基本的な回路の組み合わせに過ぎないことが実感できるのです.そしてその実際回路を作って全体の回路を動作させてみます.
 以上の過程で授業で習う基本的な回路の理論と現実的な応用回路とのギャップを埋め,実際に回路を作ることができるようになります.実際回路の製作では教科書には載っていないさまざまな問題が生じます.そのような問題をどのように分析し,どのように対応するのか,換言すれば,授業で習った知識を応用して,エレクトロニクス上のいろいろな問題点を解決する力量を養うことが卒業研究の目的です.
2.核磁気共鳴
 同時に研究室の主要な実験手段である核磁気共鳴(NMR)について勉強し,装置のいくつかの部分を自作します.NMR装置は大がかりですから一人で全体は無理で,共同製作です.
3.ゼミ
 卒業研究は研究グループを作っている善明研と合同で行います.ゼミはエレクトロニクスと磁性と核磁気共鳴の基礎理論の2種類のゼミを行います.
 *核磁気共鳴の理論:担当,善明和子
 *藤井信生「アナログ電子回路」:担当,久保英範

§2.基礎エレクトロニクス
 卒研生は回路製作の経験がないものと仮定し,基礎エレクトロニクスとして初歩から回路製作を試みます.課題は次の4テーマです.
  1.エミッタ接地増幅回路
 2.OPアンプ(μA741)の低周波増幅回路
 3.バイポーラトランジスタとICによる無安定マルチバイブレータ

 4.ゲート接地高周波増幅回路
以上の基礎的な回路によって,回路製作に必要な実際的な知識と技能・技術を身につけます.
 なお基礎エレクトロニクスは毎年と同じですから,詳細は2005年度までの卒業研究の欄を参照して下さい. 

§3.応用エレクトロニク
 
基礎エレクトロニクスの成果を元に,各自が希望する応用エレクトロニクス回路を製作します.以下が2006年度のテーマと製作を頑張った卒研生です.
 

 
1.PLLを用いた周波数シンセサイザ回路 松田貴則,吉田圭佑
 2.オーディオパワーアンプ   
塚本 雄,田中芳典
 3.広帯域のAMおよびFMラジオ  田川正計,下澤秀範,吉永光良,
 4.D級/デジタルアンプ  諸熊隆博,前川幸一
 5.ワンチップマイコンPICを用いたゲーム回路  原田秀隆
 6.周波数カウンタ 福田 祐
 7.核磁気共鳴装置の建設 
米光孝行,萩尾 健

以上のテーマの中でPLLなどの多くのテーマは昨年までのテーマと同じです.ですから,基本的な点については,昨年までの内容も参照して下さい.今年度は,面白い結果や目立つ点のみをピックアップして以下に述べます.なお画像はそれぞれの卒業研究発表のPowerPointからの引用です




<PLLを用いた周波数シンセサイザ回路>
                松田貴則君,
吉田圭祐君

 PLL(Phase Locked Loop,位相ロックループ)の動作原理は,図に示すように,まず,2つの高周波入力を位相比較器が比較し,差に応じた信号を出力します.次にループフィルターに通した低周波の電圧を制御電圧としてVCO(電圧制御発振器)の発振周波数を変化させます.この出力を位相比較器で入力周波数と一致させます.図のように回路の中に分周器を入れておけばに1/Nの周波数を得ることができます.

      PLL回路のブロックダイアグラム

 PLL回路の動作をよく理解するために今年は100kHz以下の低周波の回路に集中しました.低周波ではループフィルターの時定数が大きいので動作もゆっくりになります.制御電圧を変えるとVCOの出力周波数が大幅に変化するのも面白いのですが,作った全体回路を動作させるととても面白い.下図に動作状況を示します.上が基準入力で下がロックした状態です.この基準周波数を変化させてもさっとロックします.しかし,ロック範囲の限界に近づくとロックするのに時間がかかり,なかなかロックできません.さらに限界を超えるともうロックしなくなります.低周波なので,オシロスコープで見ているとこのようなロックの状況を直接観測できて非常に面白い.

             基準周波数にロックした様子

製作した卒研生の一言 (2007.3.25
<松田貴則君>
 
回路製作は教科書を勉強するのも良いけれど,作ってなんぼ,測定してなんぼ,だ

<吉田圭祐君>
 とにかく頑張る!難しくて,分からないことがたくさん出てくると思いますが,あきらめずに最後までやり続ける!頑張れ!!
<コメント>
 PLL回路が実際にロックする様子がとても面白かったですね.実社会に出たらいろいろあると思うけれどもとにかく頑張ってくれ!



<オーディオパワーアンプ> 

                 塚本 雄君,田中芳典君

 最近のオーディオアンプはもっぱらICで作るのが普通で,昔ながらのパワートランジスタで作るのはあまり流行らないらしい.しかし,PushPullのパワーアンプはエレクトロニクスの基本回路の1つである.今回も100Wクラスのパワーアンプを目指した.
 最初にICを用いたアンプを製作した.製作は簡単で,性能通りの20Wクラスの出力が得られ,周波数特性もよい.次にトランジスタを用いてアンプを作ったが,大出力アンプはいろいろな点で大変である.電源回路が重く大きくなって回路製作そのものが大がかりになる.大電流,大電圧では気楽には作れない.今回も100Wクラスのアンプには至らず30W程度の出力しか得られなかった.
 その過程で一番面白かったのはクロスオーバー歪みである.コレクタ接地のプッシュプル回路では下図に示したようなクロスオーバー歪みが生じる.このためにレベルシフト回路を加える.そうするとクロスオーバー歪みが消えてきれいな正弦波波形になる.

 コレクタ接地回路のプッシュプル回路に生じるクロスオーバー
 歪み

製作した卒研生の一言 (2007.3.25
<田中芳典君>
 先生方のお陰でエレキの楽しさを学びました!!エレキ最高!!

<塚本雄君>
 先生方のお陰で教科書に書いていないエレキのことを理解することが出来ました.どうもありがとうございました.
<コメント>
 レベルシフトの電圧を調整するとクロスオーバー歪みがすっきりと消えたのは驚くような面白い一瞬でしたねえ.




<広帯域のAMおよびFMラジオの製作> 
                 
 下澤秀範君,田川正計君,吉永光良君
 ラジオは易しいように思うかも知れませんが,高周波回路であってそれほど易しくはありません.
 ICはたくさんの機能が詰め込まれていますが,各部分の動作原理が分かりやすいようにICをいくつか使って広帯域のラジオを製作しました.
 AMラジオでは10MHz以下の広帯域で受信できるラジオができたのですが,一番面白かったのは,FMラジオの周波数混合の部分です.下図には,アンテナ(今の場合は標準信号発生器)からの入力と局部発振器の入力という周波数の異なる2つの入力を加えたときの混合機の出力波形を示します.理論的には,混合機からは両方の周波数の和と差がでてくるはずです.結果はまさにその教科書通りの出力となってでとても面白い結果でした.

         周波数の異なる2つの入力に対する周波数ミキサ
         ーの出力波形.予想される理論波形と実際の出力
         波形

製作した卒研生の一言 (2007.3.25
<田川正計君>

 先生方,また院生(大塚さん),また他の研究室のみんなのおかげで1年間楽しく過ごせました.ありがとうございました.エレクトロニクスは難しいです.私もまだまだ勉強不足です.このエレクトロニクスの難しさってのは楽しさです.少なくとも私はそう思っています.まあ難しさだけではないけれど,です.これからヤリ始める人はとにかく楽しめ!!
<下澤秀範君,吉永光良君>
 (卒業式の時,都合により早く帰ったので残念ながらコメント無しです)

<コメント>
 田川君はとてもよく頑張りました.ほぼ独力でFMラジオを作りました.ラジオと言えば簡単そうですが,特に,FMは周波数が高くて,かなりな技術が必要です.いろんな測定結果がほぼ期待通りで一部は意外で,どっちも面白かったですねえ.




<D級/デジタルアンプの製作>  
                 諸熊隆博君,前川幸一君

 デジタルアンプは回路としては簡単なのですが,動作原理はとても面白い.
 回路そのものはそれほど複雑ではありませんがいくつかの重要な部分から成ります.毎年,実際にアナログ信号をパルス幅変調(Pulse Width Modulation)するのに苦労します.今年もだいぶん苦労しましたが,最終的には図に示すようにきれいなパルス幅変調を得ることが出来ました.

    中央がアナログの正弦波入力,上下に拡がったパルスが
    PWM出力.正弦波の電圧に応じてパルス幅が変化して
    いることが分かる

製作した卒研生の一言 (2007.3.25
<諸熊隆博君>
 教科書通りに製作を行っても失敗の連続という苦労を体験できました.回路製作って難しいなあ!!
<前川幸一君>
 いろいろと問題も発生して苦労しましたが,仲間,先生のお陰でなんとかやりとげることができました.エレクトロニクスは作って始めて楽しさが分かります!お世話になりました.
<コメント>
 デジタルアンプは原理は面白くてすっきりしているけど,実際に作るとなかなかうまく動かない.だいぶん苦労したねえ.アナログアンプで大出力のアンプは大きく重くなって製作は容易ではないので,来年はぜひデジタルアンプで大出力アンプを実現したい.




<ワンチップマイコンPICによるゲーム回路> 
                  原田秀隆君
 ワンチップマイコンPICを使った回路もいろいろな応用回路が出来ます.今年はPICのコンピュータとしての機能をフルに発揮させるようなゲーム機を作りました.
 全体回路は図に示す回路です.回路全体は複雑に見えますが,電源,PIC本体,操作部の他は表示部のダイオードがずらりと並ぶ回路です.この回路の主要部はPICに読み込ませたソフトです.ゲーム機として動かします.今回はテトリスと呼ばれるゲーム機を製作しました.ワンチップだけの機器ですが,実際にゲーム機として使えることを示しました.

                     PIC16F877Aを用いたゲーム機の回路

製作した卒研生の一言 (2007.3.25
<原田秀隆君>
 
回路製作が面白くて,何日も学校に泊まって製作を行い,とても楽しく卒研をすすめることができました.また先生方のアドバイスのおかげでゲーム機を完成することが出来ました.ありがとうございました!!
<コメント>
 これは原田君の謙遜です.実際には,PICの勉強から,実際のゲーム機としてのハード製作も,これを動かすソフトも全部独力で作ったのです.


 
<周波数カウンタの製作> 
                     福田 祐君

 最近はアナログ回路も実はほとんどデジタル回路というのが多いのですが,今年始めて,純粋なデジタル回路そのものをテーマとして加えることにしました.今年はまず周波数カウンタです.周波数カウンタというのは入力の周波数を測定する機器です.
 周波数カウンタの原理図を下に示します.文字通り正弦波やパルスの山の数を1つ1つ数えて,その結果を表示するものです.周波数というのは1秒間の繰り返しの数ですから,なによりもまずカウントする時間を正確に決めなければなりません.そのために水晶発振子を用いて正確な周波数の発振器を作ります.これを分周して正確な10msecの時間を持つパルスを作ります.そしてこのパルスの時間に入ってきた入力の山の数をカウンタでカウントしていきます.山の数が10個になると一桁上のカウントに1つ加えるという形です.これを正確に10msecの間行います.カウンタした結果を4桁のLEDで表示します.例えば,10msecの間のカウント数が53293であれば,この100倍,つまり5.329MHzが入力の周波数ということになります.

                  製作した周波数カウンタのブロックダイアグラム

 製作では市販本に書いてある回路図を出発点としたのですが,古い回路で,今や入手できないICが多くて代替品に苦労しました.周波数カウンタなどは手頃なデジタル機器なのでいろんな回路がたくさん書いてありそうですが,実際にはほとんど見かけません.結局,動作原理から言えばこうなるはずだ,どうしてこうならないのだろうかとか,こう使えば良いのではないかとか,あれこれとだいぶん苦労しました.しかし,最終的には9.999MHzまでの4桁の周波数カウンタを作ることができた.市販の周波数カウンタでチェックした結果,誤差は0.001%以内で,上出来で問題のない結果が得られた.

                  周波数カウンタ(9.999MHz)の全体回路

製作した卒研生の一言 (2007.3.25
<福田 祐君>
 先生方のおかげで卒業研究で何と表彰されました!!ありがとうございます.
<コメント>
 研究室としては初めての純デジタル回路である.始める前,デジタル回路はうまく動けば何事もなくさっと動き,動かなければ手の打ちようがないのではないかと予想していた.しかし,やはりそんな単純な話ではなくて,アナログ回路と同じくあれこれと問題が起こってきて,対応法も基本的にはアナログ回路と同じであることを認識した.
 それはそれとして,参考にする回路がそのまま使えない部分が多くて,福田君はあれこれと苦労し,対策を頑張りました.でもその分,最終的に動作したときは嬉しかったのでは?




<核磁気共鳴装置の建設> 
                  米光孝行君,萩尾 健君

 核磁気共鳴装置は全体として大がかりでそう簡単には作れない.そこで回路の一部を製作して核スピンの信号を観測します.今回は米光君は心臓部の高周波増幅回路,萩尾君はパルス発生器を作った.それらを使って蟻酸ニッケル,Ni(HCOO)・2HO,のプロトンNMR信号を観測した.これを下図に示します.

 作成した回路を用いて観測した蟻酸ニッケルのプロトン
 NMR信号(室温).下が観測波形で,上はこれを平均
 化してノイズを減少させた波形.

製作した卒研生の一言 (2007.3.25
<米光孝行君>
 私が卒業できたのも先生方の一方ならぬご指導のお陰です.本当にありがとうございました
<コメント>
 発表会が迫ってくるのに焦る様子もなく悠々とすすめる大物振りに感心!
<萩尾 健君>
 年中ご迷惑をおかけしました.無事卒業することができ,ありがとうございます.
<コメント>
 いや本当に,どうなるかと思った.「やればできる!」これを肝に銘じて頑張って下さい.



最後にコンパの時の写真を何枚か



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