は じ め に

 人工知能は人間の知能を生み出している諸機能をコンピュータ上に実現することを目的として生まれた学問です.この学問はコンピュータの有用性を向上させるだけでなく,知能の本質を知りたいという我々の知的欲求にも応えようとします.また最近では,1台のコンピュータによる人工知能の実現からWWW(World Wide Web)をベースとした人工知能の実現をも目指すようになってきました.このように,常に挑戦的な研究テーマをかかげて発展を続けている人工知能を,初めて学ぼうとする学生や技術者,管理者,経営者のために本書は著わされました.

 人工知能は今や情報工学関係の学生や一部の研究者だけのものではなくなっています.今なお急速に進展し続けている高度情報化社会で活躍してゆこうとする人々にとって,人工知能に関する基本的知識は不可欠です.事実,AI,知識ベース,ファジィ,ニューロ,自動翻訳,音声認識,文字認識,エージェント,知識発見,Webマイニング,などといった言葉が巷に氾濫しています.このような現状をみても,人工知能に関する正しい基礎知識を習得し,誤った認識を正し,適切な判断を下せるようにしておかなければなりません.最近の大学では情報関連学科だけでなく,理工系学科のほとんどが人工知能という授業科目を設定しています.人工知能を教える文系の学科も現れたくらいです.人工知能を本格的に教えている学科では,より細分化された授業科目や人工知能演習,人工知能プログラミングといった実践的な科目も設定されるようになってきました.

 本書は13回前後の半期の講義で人工知能の全貌を習得できるようにまとめました.そのため,哲学的な議論や厳密な形式的記述を極力排除し,できるだけ直感的に理解できるように努めました.興味を感じたテーマについては各章ごとに示した参考文献を読み,無償の各種人工知能プログラムをWebからダウンロードし,実際に使用してみることをお勧めします.

 本書の親にあたる前著「人工知能概論(共立出版,1992年)」は,多くの読者に支えられ,初版発行以来14回増刷されてきました.

 初版発行から12年が経過し,その間に情報工学は驚くほどの進歩をとげてきました.特に,マルチメディアパソコンとインターネットの進歩と普及は,ビジネス分野にとどまらず社会生活のスタイルをも大きく変えつつあります.今やインターネットは世界中の膨大な数のコンピュータを網目状につなぎ,現代社会のインフラ(産業基盤・社会基盤)となりました.

 これまでのIT革命進行中に人工知能研究も着実に進歩し,初版では時期尚早として割愛した技術の中にも評価が定着してきたものが増えてきました.さらに,Webの爆発的な普及と発展は人工知能研究者にも大きな影響を及ぼし,人工知能のWebへの応用研究だけでなく,Webをベースにした人工知能,すなわち「Web知能」の研究も盛んになりました.

 本書(第2版)は,このような時代の流れを反映させるべく初版を全面的に見直し,Webやマスコミ等を通してふれることが多くなった新しい概念を大幅に追加し,わかりやすく解説しました.一方,ページ数の増加を抑えるため,専門的過ぎる内容や大きく進歩して独立した著書が多数存在するようになった技術はできるだけ短縮化しました.本書は,初版と同様に,人工知能の全体像をわかりやすく紹介することに最も神経を使いました.一人でも多くの読者が人工知能に興味を感じ,さらに深く勉強したいという気になっていただければ幸いです.

 最後に,初版に引き第2版発行の機会を与えてくれた共立出版の佐藤清俊氏および,ていねいな編集・校正を行ってくれた斉藤英明氏,筆者の講義を受講し建設的な意見をくれた福岡工業大学の学生諸君をはじめ,初版を引き立ててくれた読者の方々に,そして,今回も自宅において執筆に専念できるよう気をくばってくれた妻に,この場を借りて謝意を表します.

 2004年9月10日
                  荒 屋 真 二


● 本書のサポートページ
 本書のサポートページとして以下のアドレスにて演習問題の解答を掲載しています。そのほか,必要に応じて正誤表,補足情報,Q&Aなどを載せる予定です.
     
http://www.fit.ac.jp/~araya/AI/