風洞実験用磁力天秤装置の研究
9831074 前田 智矢 9831083 山口 貴義 9631011 呉
鍾彬
指導院生 武永 智靖
指導教員 河村 良行 教授
1.はじめに
磁力支持天秤装置とは磁気の力で風洞模型を支持し、その状態で模型に作用している空気力を測定する装置のことで、模型支持に伴う支持装置と気流との干渉を避けることで支持干渉のない風洞試験を実現することができると考えられている。
我々が現在開発中の磁力支持天秤装置は、野球ボールでの風洞実験を目標とし、直径70mmの大きさの球体模型で風洞実験が行えるように設計されている。
本報告では、本装置の力較正試験と風洞実験を中心に装置の測定精度等について述べる。
2.装置の概要
開発中の磁力支持天秤装置の構成をFig.1に外観をFig.2に示す。この磁力支持天秤装置は当初、測定部断面が40cm×40cmの風洞にあわせて設計してきたが、より大きな磁気力を必要とするため高さを36cmに縮めている。装置は主に、パソコン(PC)、電流制御回路、空芯コイル(外径180mm、内径140mm、厚さ20mm、255巻き)、大型永久磁石(外径150mm、内径50mm、厚さ25mm、残留磁束密度1.066T、サマリウム系希土類磁石)、位置検出器から構成されている。
風洞模型の内部には小型永久磁石を入れる。装置の大型永久磁石との磁極の関係はFig.1に示す通りである。小型永久磁石には直径30mm、長さ40mm、残留磁束密度1.39Tのネオジム系希土類磁石を用いている。現在、より大きな磁気力を得るために、直径35mmの磁石を内臓させた模型を製作し、力較正試験を行った。
Fig.1 MSBS for Wind Tunnel Experiments.
模型の制御軸はFig.1に示す様に鉛直方向をZ軸、水平方向をそれぞれX、Y軸とし、その軸回りの回転をそれぞれθx、θyとする。また、Z軸回りの回転θz軸は制御していない。その理由としては野球ボールの風洞実験では、θz軸に任意の回転数を与え実験を行う為、θz軸を特に制御する必要性がないからである。将来的には装置の汎用性を考慮し、θz軸の制御方法を検討中である。
装置上下の大型永久磁石は、模型に作用する重力に釣り合う磁気力を得るために設計されている。従って、模型の設計段階において、装置中心部で模型に作用する重力と磁気力とが釣り合うように、模型の質量を調整する必要がある。また、模型を磁力支持するために制御させる磁場を形成するコイルは、Fig.1 に示す様に装置上下に各4個ずつ設置されている。
この装置の特徴として、模型に作用する重力と等しい磁気力を装置に設置されている大型永久磁石により得ることができるので、模型の浮上支持に消費する電力はほぼ0であり、装置全体の消費電力が抑えられていることが挙げられる。また、模型を支持制御する磁場は全て空芯コイルにより形成されるので線形に磁場を制御でき、比較的容易に高精度な力測定を行うことができる。
Fig.2 MSBS
and Wind Tunnel.
3.制御法
模型の位置姿勢制御は、装置上下に設置された大型永久磁石と合計8個のコイルが形成する磁場を制御することに行われている。各コイルに供給できる電流は±10Aの範囲である。先に述べた様に、位置姿勢制御はX、Y、Z、θx、θY軸の合計5軸の制御まで可能である。
模型の位置姿勢検出の方法として、Z軸は模型の上端に水平にレーザー光を照射し、その対面にある光検出器の値の変化から検出する。X、Y、θx、θy軸の位置姿勢検出は、模型の上側と下側の中心に直径3mmの反射シールを貼り、その部分にレーザー光を照射し、その反射光を4分割光検出器に受けさせ検出する。制御法には5軸それぞれに対しPID制御を用いる。軸単位で模型に作用させる磁気力の方向は異なるので、当然コイルに形成させる磁場も軸単位で異なる。よって軸単位で各コイルの電流の向きを決定し、その軸単位での各コイル電流値を合成することにより制御は行われる。PCが模型の位置姿勢情報を得て、新たに出力するまでに要する時間は6.5msである。この値は、コイルを含む定電流回路の応答特性を考慮し、最適な周期に設定されている。
4.力較正試験
磁力支持天秤装置を使用する風洞実験において模型に作用する空気力を測定するために、実験前に軸単位で模型に作用する磁気力とコイル電流の関係式を求めておく必要がある。その方法として、模型に重りを吊り下げて、重りとその時のコイル電流との関係から求める力較正試験を採用している。
力較正試験では模型に直接ワイヤ等を取り付ける必要があるので、模型形状によって較正試験の精度が大きく作用されてしまう。しかし、実際に磁気力が作用するのは模型内部の永久磁石なので、較正する模型内部の永久磁石が同じならば、模型の外部形状が異なっても問題ないと考えられる。そこで力較正試験が容易に行えるFig.4 に示す形状の模型を使用して力較正試験を行った。模型内部の永久磁石には直径35mm、長さ40mm、残留磁束密度1.35Tのネオジム系希土類磁石を使用した。
Fig.4 Calibration Test
Model.
制御可能な5軸について軸ごとに力較正試験を行った。各軸の較正試験の制度は鉛直方向、水平方向、回転方向で異なる。模型に作用させることが可能な磁気力はZ軸で最大0.43N、X、Y軸で0.59N、θx、θy軸で0.038N・mの測定結果を得た。較正試験結果から較正対象の軸とそれ意外の軸との干渉の度合いを確認するために、各軸ごとに近似直線の傾きを求め、較正対象の軸の傾きとの比で表したのがTable
1である。
|
Z axis |
X axis |
Y axis |
θx axis |
θy axis |
Z axis |
-------- |
0.37% |
0.66% |
-0.25% |
-2.09% |
X axis |
0.84% |
-------- |
0.72% |
0.30% |
0.20% |
Y axis |
2.16% |
0.86% |
-------- |
0.29% |
-2.00% |
θx axis |
1.15% |
2.90% |
5.33% |
---------- |
-1.16% |
θy axis |
0.73% |
3.36% |
0.85% |
-1.16% |
--------- |
Table 1 Interference between Y Axis and Other 4 Axis.
この結果から原因の多くは試験中、模型に力が作用する方向と装置の軸方向とが正確に一致しないためと考えられる。よって、より高い精度で模型に作用する空気力を測定するには装置自体の正確な軸方向を把握し、その情報をもとに力較正試験を行う必要がある。また当然、風洞の流れ方向と装置の軸方向とを正確に一致させた状態で風洞実験を行う必要がある。
5.風洞実験
磁力支持天秤装置を装備した風洞は測定断面が36cm×40cm、開放型押し込み式で大部分が鉄製である。縮流胴は絞り比18、動力37kwの動力機で、風速範囲は0〜48m/sを出すことが可能である風洞装置を用いて風洞実験を行った。その様子をFig.5とFig.6に示す。
磁力支持天秤装置の特徴である支持干渉のない風洞実験を行うことができるので本装置を用いて支持棒による干渉がどの程度であるかを測定した。
Fig.5 MSBS with
wind Fig.6 Influence
with
tunnel tests.
a support stick
Fig.5は支持干渉のない風洞実験を示している。Fig.6は支持棒による干渉を計測するため、直径5.6mmアルミ製丸棒を球体模型の中心に後方から水平方向に設置し、中心軸上から1mm程度離し、風速はピトー管を用いて5〜20m/sまで1m/s間隔で測定を行った。Fig.7は風速一定の状態でコイルに流れる電流値を連続に1024回測定し、その平均を取っている。
Fig.7 The Comparison of MSBS and Influence with a support stick
6.まとめ
現状の実験ではFig.7に示すように支持棒の干渉により抗力係数が減っているが、今回の支持干渉の比較は本装置の測定誤差を含んでいるため支持棒による影響はまだ不十分である。よって、今後は力較正試験による軸干渉の問題を解決し、磁力支持天秤装置の精度を上げる必要がある。また、支持棒の直径を変えて多数のデータを取り、支持棒による干渉の傾向を明確に求めていく必要がある。
参考文献
1)
澤田秀夫、河野 敬、国益徹也:「航技研における磁力支
持天秤装置の研究」第60回、第61回風洞研究会議論文
集.
2)
澤田秀夫、国益徹也:「航技研60cm磁力支持天秤装置」
第38回飛行機シンポジューム.
3)
高橋貴臣、武永智靖、森田大介、田中俊介、河村良行:
「40cm×40cm風洞実験用磁力支持天秤装置の研究」日本
機械学会流体工学部門講演概要集(2000.9.9-10、室蘭
市).
4)
武永智靖、高橋貴臣、河村良行、溝田武人:「風洞実験
用磁力支持天秤装置の開発(球体模型の空力特性)」2001
年度 年次大会講演論文集.