魚型ロボット実験システムの構築とその評価

 

Construction of experiment system of a fish type robot and its evaluation

 

CM01008酒井 貴 指導教員(河村 良行 教授)

 

Abstract

 

An efficiency of general screw propellers is 50%-55%. An efficiency of swimming a rainbow trout of a fish is 60%-70%. A propulsion mechanism of a fish is more efficient than screw propellers. It is necessary to study this for developing the energy saving a propulsion mechanism in the water. We have a purpose to develop the effective propulsion mechanism in the water in future. We develop a fish type robot copying the movement mechanism and pattern of a fish. We developed an experimental system of a fish type robot. We checked that a fish type robot increases speed by the optimal learning control in field trial. We designed multi-link system so that it can be extended to parts of multi-function. It is a flexible experimental system of a fish type robot. We had success in increasing the freedom of control system and measurement system by wireless control.

 

Key Words : fish type robot , energy saving a propulsion mechanism, optimal learning control, multi link system, wireless control

 

 

 


1.はじめに

一般的なスクリュープロペラ効率は50%〜55%である。1)2)これに対し、ニジマスの遊泳効率は60%〜70%である。2)3)

また、スクリュープロペラは、急加減速や急旋回をするのが困難であり、それに対して、魚の水中推進能力は速度、効率、旋回性能など非常に優れており、魚は複雑な運動パターンにより様々な環境の変化に応じて適応する自律的な運動システムを有していると考えられる。4)

本研究では、魚の運動機構と運動パターンを規範することにより優れた水中推進機関の開発を目的とする。今回、著者らは魚型ロボットの実験システムの構築を行った。本論文では魚の運動機構を規範したロボットの構造、制御システム、学習実験についての評価について報告を行う。

 

2.実験装置及び、方法

 

2.1魚ロボットの基本構造

本実験の為に設計した魚型ロボットは、頭部コントロールユニット、駆動部ユニット、尾部パワーユニットより構成され、特に頭部ユニットに動作ユニットを複数つなぎ合わせることにより、多リンク化することが可能な構造となっている。また、多リンク化することによりそれぞれの動作ユニットに配置したサーボモータにより各部位が独立した動きを行うことが可能であり、これにより複雑な泳法を規範可能な構造である。

また、各ユニットの配置及び、各ユニットをFig.1に示す。今回実験に用いる魚型ロボットの構成は、頭部制御ユニット×1、駆動部ユニット×3、尾部パワーユニット×1から構成され、全長990[mm]、体高140mm]、重量7kg]である。魚型ロボットをFig.2に示す。

 

2.2各部ユニットの詳細

今回、魚型ロボットを構成する要素は、頭部コントロールユニット、駆動部ユニット、尾部パワーユニットによって構成される。各部の詳細ついて述べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Fig.1 Basic construction of a fish type robot.

 

(1)頭部パワーユニット

頭部の構成要素は、魚型ロボットの遊泳速度を測定するプロペラ式流速計、魚型ロボットの各パラメータを陸上のパソコンに送信する無線データ送信器である。特に魚型ロボットのパラメータデータの送信を行うユニットである。

(2)駆動部ユニット

駆動部ユニットの構成要素は、魚型ロボットの動力であるサーボモータ、サーボモータの回転往復運動を後部に伝えるためのリンク機構で構成されている。サーボモータが回転反復運動を行い、サーボモータに連結した軸が水平運動に変換し、後方に回転反復運動を伝える。駆動部ユニットが持つパラメータは、周波数(1〜2[Hz])、位相(−180180[deg])、振幅(−3030[deg])であり、これらのパラメータを個々に制御することが可能であり、駆動部ユニットを複数台つなぎ合わせることで、より複雑な遊泳運動を可能としている。

(3)尾部パワーユニット

尾部パワーユニットの構成要素は尾鰭200×130×1[mm]の材質ポリエステルであり、魚型ロボットの電源であるニッカド電池である。現在使用しているバッテリは、6[V]1500[mAh]の容量であり、現行の構成で約一時間の遊泳を行う。

各ユニットのバランスは設計時の重心計算により得られた計算値に元づいて作成されている。しかし、各ユニットは別個に作られたものであり、重心が必ずしも同じとは限らない。よって最終的にバランスを保つには、重りを各ユニットに配置しバランスをとっている。この手法の利点は、新たに新要素を追加する際に生じる重心の偏りをある程度、緩衝することが出来る点である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Drive unit        Head control unit       Tail power unit

 

Fig.2 A fish type robot.

 

2.3   運動制御システム

 

Fig.3に運動制御システムを示す。パーソナルコンピュータ(以下PC)にD/A変換器を介してR/C送信機を接続し、運動制御プログラムによりサーボモータを制御する。また、開発項目として計測を行うデータは各動作ユニットの角度、周波数、サーボモータの消費電力、魚型ロボットの移動速度などが考えられ、それぞれの測定データ計測方法は以下に示すようになる。まず消費電力はバッテリとサーボモータの間に直列に取り付けられたシャント抵抗の両端の電圧を計測し、シャント抵抗の抵抗値は既知であるから、直列に接続されたサーボモータの電流を計測することが可能であり、これに加えてサーボモータに付加された電圧より消費電力を計測可能である。しかし、現行では測定システムと制御システムは一台のPCにより制御しているため消費電力は測定出来ていない。次に移動速度はプロペラ式流速計を用いて計測する。そして、これらの測定データを無線によりPC側に送信することで、魚型ロボットの様々な実験パラメータを陸上のパソコンに集約する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Fig.3 Control system for a fish type robot.

2.4学習アルゴリズム

 

歩行や遊泳、羽ばたきなどリズミカルな運動パターンは、脊髄や神経節の中の神経回路の発振器としての働きによって発生している事が明らかにされている。5)

学習モデルをFig.4に示す。このような、神経回路による運動パターン表現の最も単純なモデルとして、図のようなネットワークモデルを構成した。このネットワークは一定の周期で発振する神経細胞郡と、魚型ロボットの各駆動部ユニットに司令を送る出力細胞から構成される。発振細胞の波形は、

 


2.1)

 

のように合成され、それにより魚型ロボットの関節角度θ1、θ2、θ3が制御される。

ただし、遊泳パターン発生ネットワークの各発振細胞の出力波形は、

 

 

 


2.2)   

 

 

 

 

このような系列をなしているとした。つまり結合した出力波形はフーリエ成分の形で表現されることになる。

運動の評価の方法は、適当な初期荷重w0を与え、魚型ロボットを遊泳させ、評価値Eを測定する。その後、荷重行列wにランダムな微小変動荷重wを加え、遊泳により得られる評価値Eを測定し、評価値Eがそれまでに測定された評価値より、向上が行われれば微小変動荷重wを加えられた状態を定着させ、向上が行われなければ、微小変動荷重wを加える以前の荷重に戻す。この過程を繰り返し、学習を行う。図に山登り法の流れ図を示す。

また、評価値を求める評価関数は以下の式で定義した。

 


2.3)

 

Vは魚型ロボットの遊泳速度、Veはバッテリの電圧である。現状の魚型ロボットはバッテリ駆動であり、時々刻々電圧の降下が生じる。公平な評価を下すため現在は式(2.3)の評価関数を適用している。順次試行回数でのバッテリ電圧をFig.8に示す。

 

2.5実験方法

 

(1)微小変動荷重wの変化による遊泳速度の変化

試作した魚型ロボットの山登り法による学習遊泳実験を行った。まず、微小変動荷重wの変化範囲を決定するために微小変動荷重wを±0.2、±0.5の場合における速度の変化を観察した。

(2)最適駆動周波数

その際、駆動部ユニットの駆動周波数f1.0[Hz]〜1.8[Hz]まで変化させ、学習の試行回数50[回]で、学習の初期値乱数範囲を±0.5、微小変動荷重wを±0.2で遊泳速度測定を行った。今回学習実験を50[回]に限定した理由は試行を行う事でバッテリ電圧の減少が見られたためである。

(3)試行回数増加

(2)により1.2[Hz]が現状での最適な駆動周波数であると考えられるので、試行回数を50[回]から140[回]に増加しての学習実験を行った。図に試行回数140[回]、駆動周波数1.2[Hz]での学習実験を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


fFrequency β:Phase difference θAngle

 

Fig.4 Modeling of the learning control.

 

 

3.実験結果

 

(1)微小変動荷重wの変化による遊泳速度の変化

微小変動荷重wの変化による結果をFig.5、6に示す。±0.2に比べ±0.5の遊泳速度はバラツキが見られ、微小変動荷重は±0.2が最適と考えられる。

(2)最適駆動周波数

各周期の遊泳速度をFig.7に示す。この図より、現在の魚型ロボットの形状、尾鰭においては1.2[Hz]が最適と考えられる。

(3)試行回数増加

Fig.9に結果を示す。今回の学習実験では試行回数134回目で遊泳速度26.994 [cm/s]を記録した。134回目における各駆動ユニットに対する出力波形はFig.10に示されるようになった。50[回]の試行による最高速度との比較すると速度に関して特に変化は見られなかった。この結果が現状の学習アルゴリズムにおいて最適な学習であるかを判断するには、より多くの実験により比較検討が必要となると考えられる。

 

 

テキスト ボックス: Swimming speed V [cm/s]
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Number of learning  n

 

 

 

 

Fig.5 Learning for random number ±0.5 of a fish type robot.

 

テキスト ボックス: Swimming speed V [cm/s]
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Number of learning  n

 

 

 

 

Fig.6 Learning for random number ±0.2 of a fish type robot.

テキスト ボックス: Swimming speed V [cm/s]
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Drive frequency f [Hz]

 

 

 

 

Fig.7 Swimming speed as a function of drive frequency of a fish type robot.

テキスト ボックス: Voltage of a battery Ve [V]
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Number of learning n

 

 

 

 

Fig.8 Voltage of a battery as a function of number of learning of a fish type robot.

テキスト ボックス: Swimming speed V [cm/s]
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Number of learning n [N]

 

 

 

 

Fig. 9 Swimming speed as a function of number of learning of a fish type robot.

 

4.考察

 

今回作成した魚型ロボットの遊泳に関して、駆動部の駆動周波数が1.2[Hz]の場合において最適と考えられる。また、学習の微小変動荷重wは±0.2において安定した学習を行っている。±0.5では速度の上昇、下降が激しく収束性が見られなかった。よって今回は±0.2を採用している。

現状の魚型ロボットは消費電力の測定を行っていないため、効率の点においては不明であるが、魚型ロボットの遊泳速度は学習アルゴリズムを使用して学習の結果、魚型ロボットの速度向上を確認した。学習アルゴリズムは複雑な遊泳パターンを持つ魚型ロボットの泳法探索において有用な手段と考えられる。しかし、バッテリの電圧降下に従い速度の減少が見られるため、収束性が高く、学習の失敗の少ないアルゴリズムが必要である。

また、消費電力の測定は、リアルタイム測定が必要であるので、測定部と制御部を別個に構築する必要がありデータ測定システムについて再構築を行う必要がある。

 

5.まとめ

 

(1) 魚型ロボットの設計、試作を行い、遠隔操作による実験システムの構築を行った。

(2) フィールド実験を行い、速度を測定する測定システムの構築を行った。

(3) 魚型ロボットを学習アルゴリズム「山登り法」により駆動させ、速度の増加、泳法の最適化を確認した。

 

謝辞

 

魚型ロボット作成に際し、ご指導していただいた工作センターの大西先生、長野先生、平田先生 及び、研究を進めていく上で、指導していただいた河村良行教授、及び知能機械工学科の先生方に謝意を表する。

 

参考文献

 

(1) 大串雅信:「理論船舶工学(下巻)」、海文堂(1958),p160-179.

(2) 永井寛:「イルカに学ぶ流体力学」,オーム社(1999).

(3) 東昭:「生物の動きの辞典」,朝倉書店(1997),p141-183.

(4) 平田宏一:「小型魚ロボットの設計・試作」 ,日本設計工学会平成11年度春期研究発表講演会講演論文集,No.99−春季, (19995),p.29-32.

(5) 中野馨:「Cでつくる続・脳の情報システム」,啓学出版

(1992),p183-190.

 

研究業績(学会発表または学術論文)

 

(1)   酒井貴 , 河村良行 , 徳久健一 , 田中宏樹 , 木村一智

:魚の推進機構の研究 , 日本機械学会2002年度年次大会講演論文集(W)(2002, p.131-132

(2)   酒井貴 , 河村良行, 徳久健一 , 田中宏樹 , 木村一智

:魚の推進機構の研究 , 日本ロボット学会創立20周年記念学術講演会講演概要集(2002,p.154