マイクロテクスチャの製造技術

1.研究の背景

  金属材料の研削加工に振動を与えると,砥粒が振動した痕跡が工作物の表面に残ります. この実験事実は,40年位前の文献に見出すことができます. しかし超音波振動が表面加飾の手段として認知されていないという事実は, 過去40年の間,研究者の精力は砥粒が振動した条痕を消すことに費やされてきたことを意味しています. 我が研究室では,従来の研究プロセスとは全く異なり,砥粒が振動した条痕を積極的に金型表面の加飾に応用することを試みています. 2000年6月に,「超音波振動研削の金型表面修飾への応用」と題した我々の講演は型技術財団から奨励賞を受賞しています. この事実は,少なくとも日本では超音波振動研削を研削加工表面の修飾に適用した前例がないことを意味している,と勝手な判断をしています.

2.解析の対象

2.1ボールエンドミルを用いたfp加工面の解析
工具一回転当たりの送り量fとインフィード量pを等しく設定しますと,法則性のある美しい加工面が得られる場合があります.fp加工面と呼ばれています. ただし,常に得られるという訳ではないような印象を持っていました. そこで,ボールエンドミルを用いた切削加工時に生成されるfp加工面を数値解析によって創成することを試みてみました. 解析結果の一例を図1に示しています.(図をクリックしてみてください) 図1に示したダイヤモンドパターンの他に,6角形パターンも創成できます.

2.2 超音波縦振動を利用したマイクロfp加工面の解析
縦振動を付加した超音波振動研削を行いますと,ボールエンドミルを用いたfp加工面に比べ,極めてサイズの小さいマイクロfp加工面を創成できる場合があります. だたし,常に同じ形態の加工面が得られるとは限らず,加工面の生成メカニズムを明らかにする必要に迫られていました. そこで,超音波縦振動研削を行うことによって,美しいマイクロストラクチャを創成することを試みました. 解析結果の一例を図2に示しています.

2.3 超音波捻り振動を利用したマイクロプリズムの解析
マイクログラインデング用ツールを駆使する手段として,2002年度から超音波捻り振動ユニットを使うことを計画しています. 超音波の縦振動を利用した数値解析を行う過程で,この超音波の捻り振動も,研削加工表面の修飾に使える可能性が考えられました. そこで,捻り振動を利用して美しい加工面を得るための加工条件を見出すことを試みました. もしも実験を先行していれば,間違いなく『超音波捻り振動は表面修飾には適さない』という結論を得ていたか, もしくは,美しい加工面を出すための入り口に到達するまでに,最低でも2年は要したのではないかと思われます. 解析結果の一例を図3に示しています.図3に示したピラミッドパターンの他に,6角形パターンも創成できます.

Hexagonal Pattern

図1 ボールエンドミルにより生成されるマイクロテクスチャ

Dimple Pattern

図2 超音波縦振動研削により生成されるマイクロテクスチャ

Pyramid Pattern

図3 超音波捻り振動研削により生成されるマイクロテクスチャ