福岡県IST研究成果報告書

図1に示しているのは,2003年に住友電気工業鰍ナ開発されましたナノ多結晶ダイヤモンド(Nano-Polycrystalline Diamond: NPD)[1],と呼ばれている多結晶ダイヤモンドです. サイズが数十ナノメータのダイヤモンドの粒子と,網の目のような粒界で構成されています. 微細なダイヤモンド粒子の内部に生じる転位や劈開が粒界でブロックされますので,単結晶ダイヤモンドより硬いだけでなく,劈開が伝播しない性質を持っています.

2007年にNPDをマイクロボールエンドミルの工具素材として使用する機会に恵まれました. 市販されている焼結ダイヤモンド(Polycrystalline Diamond: PCD)には焼結助剤としてコバルトCo系金属が用いられているのに対し,NPDには焼結助剤が含まれていません. したがいまして,NPDを工具素材に用いますと単結晶ダイヤモンド製のマイクロボールエンドミルと同様に,欠けがない鋭利な切れ刃を持つマイクロボールエンドミルを作ることができるのでは? と考えた次第です.

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図1 NPDの外観とTEM画像[1]
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図2 PCD製ツルーアの砥石作用面

紆余曲折はありましたが,図2に示しております砥石作用面の粗さを30 nm Rz前後の値に成形しましたPCD製の円板をツルーアに使用し, レーザ成形しましたNPD製のマイクロボールエンドミルに対して仕上げ成形を行うと,図3に示している工具半径が50 μmで,欠けのない鋭利な切れ刃を成形できました. また,図4に示しているように,ビッカース硬さが1350 Hvの超硬合金に対して断続切削を致すことができました[2].

図3に示しましたNPD製のマイクロボールエンドミルを成形できましたのは2008年でした. 研究の成果を論文[3]にまとめます過程で,何故,欠けが無い鋭利な切れ刃が成形できたのか?という点に関しては明確にしておく必要があると感じました. 幸いなことに,2009年から2010年の2年間,「高硬度ナノ多結晶ダイヤモンド製切削工具に対するチッピングフリー仕上げ成形技術の開発」と題しました研究課題が 福岡県産業・科学技術振興財団・産学官共同研究開発事業に採択され,知的好奇心を満たすための基礎研究と実用化を意識した応用研究を行う機会に恵まれました.

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図3 NPD製マイクロボールエンドミル[2]
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図4 超硬合金の加工面とエンドミルの刃先[2]

単結晶ダイヤモンド製の切削工具同様に,鋭利で欠けのない切れ刃を成形できる工具成形技術を確立するためには,継続して基礎研究を進める必要があります. 悔しいことに,現時点ではNPDに対する工具成形技術を完璧には確立できていないと感じております. ただし,公的研究資金で研究を実施させていただきました以上,研究の成果を開示いたす必要があると考え,研究成果を報告致します.

[1]H. Sumiya, High-Pressure Synthesis of High-Purity and High-Performance Diamond and cBN Ceramics, Advances in Science and Technology, Vol45(2006), pp. 885-892.
[2]仙波卓弥・岡崎隆一・角谷均,ナノ多結晶ダイヤモンド製マイクロボールエンドミル,日本機械学会論文集C編,76-763,(2010-3), pp.768-776.
[3]仙波卓弥・太田修平・天本洋文・藤山博一・角谷均,ナノ多結晶ダイヤモンドと焼結ダイヤモンド製研削工具との間に生じる熱化学反応のメカニズム, 日本機械学会論文集C編,77-784,(2011-12), pp.4704-4717.