1.         三次元非定常翼列フラッタに関する研究

概 要

 

翼列フラッタは、航空機用ガスタービンエンジンを始めとする軸流機械の設計を支配する異常現象である。特に近年では、大出力で高効率の軸流機械を実現するために、翼の軽量化、薄翼化および作動流体の高温化に代表される限界的な設計が余儀なくされ、翼列フラッタ発生の可能性が増大している。したがって、設計段階において軸流機械内部の流れを正確に予測すること、およびフラッタと設計パラメータとの関係を把握することは、翼列フラッタの防止および軸流機械の合理的設計に対して重要である。

特に、フラッタ限界の予測を行う場合に、現在最も困難な点は、多くの因子に支配される振動翼列の非定常空気力を正確に評価することである。しかしながら、実験によって、広範囲にわたる設計パラメータと現象との関係を把握するためには、膨大な時間と費用を要するため、非定常性を伴う翼列内部流れのような流動現象に対しては、簡明な理論的予測が不可欠である。

本研究は、振動翼列の非定常空気力に重大な影響を及ぼす定常負荷に着目し、定常負荷を有する二次元翼列および翼幅方向に非一様な定常負荷と振幅で振動する三次元翼列に対して、非定常空気力求める解析的手法である独自の二重線形理論を展開し、この理論に基づいた数値計算によって、広範囲の翼列設計パラメータに対する非定常空気力の依存性を系統的に明らかにした。なお、本数値計算手法は、適用範囲には限界があるものの、CFDによる計算に比べて百万分の1程度の時間で非定常空気力が計算できる利点を有する。

 

二重線形理論の基礎概念:先ず、本理論の仮定として、

l         流体は完全ガスで等エントロピー変化をする。

l         定常擾乱は非定常擾乱に比べて十分大きいが、定常擾乱は線形理論の範囲内で決定できる大きさである。この仮定の下では、非定常擾乱が定常擾乱を含んだ局所音速で伝播、局所流速で輸送される効果は無視でき、非定常擾乱に及ぼす定常擾乱の効果は、定常束縛渦や定常わきだしの変位効果を意味する非定常擾乱源として非定常線形波動方程式の擾乱源項に取り入れることができる。

 

二次元亜音速翼列:定常負荷を有する二次元亜音速翼列を解析モデルとし、圧縮性流体中で定常負荷を有する翼が振動する場合に、その時間平均位置において、強さが定常負荷に比例する振幅で変動する質量わきだし(等価非定常わきだし)が存在することをはじめて定式化した。本理論に基づいた数値計算結果とCFD(例えば有限要素法)による結果および実験値とを比較することで本理論の有用性を確認した。また、純曲げおよび純ねじり振動における非定常空気力と設計パラメータとの関係を明らかにした。

 

二次元超音速翼列(軸流亜音速):軸流亜音速の二次元超音速翼列に対して、従来考慮されていなかったマッハ線反射点変位効果を含み、前述の等価非定常わきだしを擾乱源項に追加した二重線形理論を示した。数値計算によって、本理論と逐次近似解法、有限要素法による計算値および実験値とを比較することにより、本理論の有用性を確認した上で、個々の翼列設計パラメータと振動翼列の空力不安的限界との関係を明らかにした。

 

三次元亜音速翼列:平行剛壁間に挟まれた亜音速直線翼列において、羽根の振動振幅が翼幅方向に一様でない効果に加え、定常負荷が翼幅方向に非一様な効果を考慮した三次元翼列モデルを考えた。このモデルにおいて、定常負荷を持つ翼が三次元振動するとき、翼は周りの流体から、2種類の翼幅方向非定常空気力を受けることを初めて示し、これらを擾乱源項に追加した二重線形三次元理論解法を示した。数値計算において、本理論とストリップ理論値との差を三次元効果と定義し、また翼幅方向一様と非一様な場合の定常負荷効果によって誘起される非定常空気力の差を非一様効果と定義して、両者と設計パラメータの関係を明らかにした。また、一次曲げ、一次ねじり、二次曲げ振動における非定常空気力と設計パラメータの関係を明らかにした。

 

三次元超音速翼列(軸流亜音速):軸流速度が亜音速の場合の三次元超音速直線翼列モデルを取り上げ、隣接翼の前後縁から発するマッハ線反射線変位効果を含む二重線形三次元理論を展開し、能率的に非定常空気力を計算する手法を定式化した。迎え角、そり、厚みの翼幅方向分布を変化させた場合の数値計算結果より非定常空気力に対する非一様効果およびそれと諸パラメータとの関係を明らかにした。特に、三次元超音速翼列における非定常空気力は、定常負荷の翼幅方向非一様性とマッハ線、食違い角、節弦比およびねじり振動軸位置などに複雑に関係し、各場合ごとにそれらの影響を判断する必要があることを指摘した。また、1次曲げ、1次ねじりおよび2次曲げ振動における非定常空気力と設計パラメータの関係を明らかにした。

 

二重線形理論を、翼弦方向変位を伴う剛体振動および断面変形を伴う非剛体振動を行う二次元亜音速および超音速翼列に拡張した。本理論に基づく数値計算結果から翼弦方向変位の効果および非剛体振動(翼弦中心は不動で放物形の振動振幅)に関して、個々の翼列設計パラメータと振動翼の空力不安定限界の関係を明らかにした。