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はしがき

1992年に放映されたNHKの「毛利衛さんの宇宙報告」という番組で,スペースシャ トルの中でペンチを回す実験の映像を見た人もいるでしょう.ペンチは始め図 1のように回転しながら浮かんでいるが,数秒たつと上下が入れ替わって図2 のようになり,また数秒たつと元の図1に戻るという運動を繰り返す.

本稿ではこのような運動を剛体の回転運動のコンピュータシミュレーションで再 現してみる.ペンチに固定された座標系a,b,c軸を導入しよう.ペンチの中心軸をc軸とする. ペンチの面内に,重心を通り中心軸に直交する軸を考え,これをb軸とする.こ れらに直交するもうひとつの軸をa軸とする.中心軸cの周りを回転しながら上下 反転するの仕組みは,a軸,b軸,c軸まわりの慣性モーメントを $ I_a,I_b,I_c$と するとき $ I_b<I_c<I_a$の関係になっていると,回転は不安定になることが知ら れている. 実際,回転軸の方向と回転の周期を与えると回転は決まり,大きな軌道を描いてペンチは反転し 始める.

構成としては,第1章では,はじめに,剛体の回転運動の文献を解説する. 次に,回転運動をシミュレートするプログラミング言語の選定について述べる. 第2章ではプログラミングにおける問題点とその対策について述べる.無重力状 態での剛体の回転を記述するVectorクラス,Matrix クラスの導入,ベクトル微 分方程式に対するRunge-Kutta 法,数値シミュレーション結果の可視化につい て述べる.

この記事は2000年度に行なわれた緒方隆一,古賀俊崇君の卒業研究に一部手を加 えて再構成したものである.しかし,両君の卒業研究を可能な限り尊重し,修正 は最小限にとどめた.

図 1: ペンチの上下反転
\scalebox{0.7}{\includegraphics[clip,keepaspectratio]{pench1.eps}}
図 2: ペンチの上下反転
\scalebox{0.65}{\includegraphics[clip,keepaspectratio]{pench2.eps}}



Kawabata Shigetoku
平成15年4月28日