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現象のモデル化の文献案内

研究室では,現象のモデルとモデリングに関する卒業研究を継続しておこなっているが,2000 年度のテーマの一つが「無重力状態での剛体の回転運動」であった.現実の問題 をモデル化しシミュレートするために,われわれは単純化した仮定をたくさん立 て,現実の問題を数学の問題に書き換える.現実の問題をなんらかの方法でモデ ル化し,コンピュータ上で計算できる形に翻訳しなければならない.モデルがな ければ一歩も進めないし,プログラムも書きようがない.したがって,モデルを考え,これを理解することがシミュレーションの第一歩となる.シミュレーションにとって重要なの は,対象のモデリングであり,正確なモデリングとは対象の理解そのものである. ところが,十分な時間を割いて対象を理解することなく,直ぐにコンピュータの 前に座ろうとする学生が毎年見られる.当然のことながら,コンピュータの画面 を前に途方にくれるばかりでプログラムのコードを書くどころではない.

そこでこのシミュレーションを試みるための基礎的な文献の案内か ら始めよう.スペースシャトルの中のペンチの運動を分かりやすく解説した本は

科学シュミレーション研究会: パソコンで見る複雑系$ \cdot$ カオス$ \cdot$量子,BLUE BACKS B1160, 講談社(1995)
である.Turbo C++ Version 4でコンパイル可能なソースファイルと,MSDOS 環境下で実行可能なEXEファイルも収録されている.我々はペンチの形状データ, ペンチの慣性モーメント等はこのソースファイルを参考にして決めた.ゴールドスタイン
ゴールドスタイン: 古典力学(上),吉岡書店(1983)
は古典力学の定番教科書として著名で,第4章「剛体の運動」で無重力状 態での剛体の運動方程式が導かれている.一方,コマの運動を丁寧にそしてやさしく解説し本は
安井久一: コマはなぜ倒れないか,共立出版株式会社(1998)
が最良なテキストである.文献[1]に収録されているソースファイルを理解するには,Euler-Olinde-Rodorigues のパラメタ,Cayley-Klein のパラメタを理解しておくほうがいい.これについては
山内恭彦: 回転群とその表現,岩波書店,(1957)
の第3章「回転群の表現」が詳しい.最後に本稿と直接関 係しないが
牧野淳一郎: パソコン物理実地指導,共立出版株式会社(1999)
は,物理系の振る舞いを数値的に調べるときに,どうやって求まった答えが「正しい」かどうかを判断するという議論,すなわちシミュレーション結果の検証にかなりのスペースを割いている.プログラムリストもついており,セミナーの教材として最適であると考え,採用した.

Kawabata Shigetoku
平成15年4月28日