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研究経歴

2012年−
高エントロピー合金超伝導体の新しい特徴を発見  高エントロピー合金超伝導体は、変わった性質を示すことで注目されている。例えば、地球の中心部にかかるような超高圧力を、高エントロピー合金超伝導体に加えても超伝導状態が壊れない。また、実用面でも、臨界電流密度が非常に大きなものも報告され注目されている。しかしながら、複数の元素を同程度混ぜた高エントロピー状態が超伝導にどのような影響を及ぼすのか明らかではない。今回、高エントロピー合金超伝導体HfMoNbTiZrを開発した。さらに、高エントロピー状態では、量子力学の基本原理である不確定性原理を通して、デバイ温度が上昇するほど超伝導転移温度が低くなることを発見した。不確定性原理が機能性に関わることは、超伝導体以外の高エントロピー合金にも当てはまる。したがって、本研究は、高エントロピー合金が示す様々な実用的機能性を深く理解し、さらに向上させるために役立つと期待される。

発表論文:"Superconductivity and hardness of the equiatomic high-entropy alloy HfMoNbTiZr" Journal of Alloys and Compounds 924 (2022) 166473.
高エントロピー合金ではじめて発見したCrによる強磁性  高エントロピー合金は、元素の組み合わせが多く、新奇な物性の発現確率が高くなる。今回、磁性材料を舞台にTi-Nb-Cr-Ru高エントロピー合金でCr(クロム)による強磁性発現という珍しい現象を発見した。クロムは元素としては反強磁性体だが、化合物では強磁性体になる可能性がある。しかし数例しか知られていない。しかも今回は、高エントロピー合金で世界初のクロムによる強磁性発現を実現した。強磁性は鉄によるものが代表的だが、クロムは鉄よりも強い強磁性を示すことが可能である。今回の強磁性は38Kまで冷却しなければ発現しないが、高エントロピー合金は物質設計の自由度が高いため、高温で強磁性を発現させることも可能と期待される。

発表論文:"Discovery of ferromagnetism in new multicomponent alloy Ti-Nb-Cr-Ru" APL Materials 10 (2022) 071101.
複雑な結晶構造が示す強磁性ー反強磁性転移の発見  強磁性体はこれまで磁気デバイス材料として重要な役割を果たしてきた。さらに最近では反強磁性体も次世代磁気デバイス材料として期待されている。鉄化合物において、この二つの性質を一つの物質が示す珍しい現象がある。例えばFeRh1-xPtxやCe(Fe1-xCox)2は強磁性ー反強磁性転移を示すが、これまでは単純な結晶構造が調べられてきた。我々はAl8.5-xFe23Ge12.5+xという複雑な結晶でもこの珍しい強磁性ー反強磁性転移を起こせることを発見した。これは我々のメインテーマの一つである「多様な物性が複雑性から発現している」例で、複雑な結晶構造が強磁性ー反強磁性転移を引起こす新たなルートになると考えている。

発表論文:"Competition between ferromagnetic and antiferromagnetic states in Al8.5-xFe23Ge12.5+x (0≦x≦3)" Journal of Solid State Chemistry 284 (2020) 121188.
新しい高エントロピー合金超伝導体の開発  近年、高エントロピー合金(High-entropy Alloys:HEA)という物質群が新しいカテゴリーの材料として世界的に注目を浴びている。HEAは従来の物質を凌駕する機械的特性や腐食耐性を示すことから、実用面で大きな期待をされている。一方、基礎物質科学の側面ではHEA型超伝導物質が注目されている。HEA型超伝導体はよく知られているマティアス則を満たさないなどの、これまでの超伝導体とは異なった性質を示す。HEAは複数の原子が極めて大きな乱雑さを有しながらも新しい物性を示すので、「多様な物性が複雑性から発現している」と見なせ、これからも新しい結果が出てくると考えられる。我々はBCC構造のHEA型超伝導体の開発を行った。BCC構造がよく研究されているが、それでも数例しか報告がなかった。我々はHf21Nb25Ti15V15Zr24というHEA合金が超伝導転移温度5.3Kの新しい超伝導体であることを発見した。

発表論文:"New high-entropy alloy superconductor Hf21Nb25Ti15V15Zr24" Results in Physics 13 (2019) 102275.
軽元素添加による室温強磁性誘起(磁気特性の変換)  Mn化合物にはMnBiに代表されるような強磁性体や、Mn3Snという最近トロポロジカル反強磁性体として注目されているものまで存在し、強磁性・反強磁性材料ともにMn化合物は欠くことができない。磁気特性はMn間距離に敏感であることが知られており、その制御は、軽元素添加でも可能である。我々は、強磁性を全く示さないPd0.75Mn0.25に軽元素ボロンを少しでも添加したPd0.75Mn0.25Bxで、室温強磁性が発現することを発見した。バルクのMn化合物において、軽元素添加による室温強磁性の誘起例は水素吸蔵Th6Mn23しか報告例がなく、我々の物質は、キュリー温度と室温飽和磁化は最も高い値を実現している。永久磁石の研究において、主に鉄化合物では、軽元素添加による磁気特性向上の研究が昔から盛んである。これらの研究は強磁性の性質をいかに向上させるかに焦点が当てられている。しかし、Mn化合物では、常磁性から強磁性へ、反強磁性から強磁性へといった、磁気特性の変換が軽元素添加という簡単な手法で可能となり、これからの磁性材料の研究に新たな切り口を与えた。

発表論文:"New room-temperature ferromagnet: B-added Pd0.75Mn0.25 alloy" Journal of Magnetism and Magnetic Materials 468 (2018) 115.
光誘起近藤効果の提案と候補物質の開発  磁気の光制御は光磁気デバイスに欠かせない。現在は光の熱効果で磁気を光制御しているが、低消費電力デバイスを実現するためには熱によらない磁気の光制御方法が求められている。我々は、新しい磁気の光制御方法として、光誘起近藤効果を提案し、CeZn3P3においてこの光誘起近藤効果の観測に世界で初めて成功した。現在の磁気記録デバイスでは、光照射密度は記録時に106 W/cm2と極めて大きいが、光誘起近藤効果の場合は光磁気制御には10 W/cm2もあれば十分である。したがって、光磁気記録装置や光変調器などの省電力化が期待される。
[主な研究論文 J. Kitagawa et al.: Phys. Rev. B 93 (2016) 035122]
新規レアメタル回収技術の開発  希土類磁石は、ハードディスク、携帯電話、自動車、洗濯機、磁気センサーなどに利用されており、社会生活に欠くことのできない。希土類原料を海外からの輸入に頼っている問題などから、国内で使用済み製品から希土類原料をリサイクルすることの重要性が強く認識されている。我々は希土類磁石のひとつネオジム磁石を腐食させた後に、酸とジカルボン酸を用いた既存の抽出技術を用いれば、室温プロセスで100%近いネオジムの回収率が得られることを見出した。既存技術では酸溶液を温める必要があるが、本技術ではその必要がないことに特筆すべき点がある。また、酸循環プロセスも開発し、酸廃液を出さずに複数回希土類を抽出できることを世界で初めて実証した。
[主な研究論文 Y. Kataoka et al.: AIP Advances 5 (2015) 117212, J. Kitagawa et al.: Scientific Reports 7 (2017) 8039]

2003年−2012年
高機能THz波フォトニック結晶の開発  THzデバイスの一つしてフォトニック結晶の研究が盛んであるが、THz波フォトニック結晶のもつフィルター特性等を制御するという、高機能性を目指した研究は少なかった。我々は機械的にフォトニックバンドギャップが制御可能な新しいTHz波フォトニック結晶を提案し、シミュレーションおよびTHz時間領域分光法を用いた実験で、フォトニックバンドギャップの制御可能性を示した。
[主な研究論文 J. Kitagawa et al.: Optics Express 20 (2012) 17271]
固体伝送線路を用いた高性能・高機能THz分光チップの開発  現在のTHz分光装置は、THz波発生源から検出器までのスペースが概ね30 cm×30 cmと大きい。THz分光技術の産業応用促進のためには、微量試料測定も可能とするTHz分光装置のチップ化が望まれている。そこで、マイクロストリップ線路やコプレーナストリップ線路などの伝送線路技術を用いたチップ化(THz波発生源から検出器までのスペースは概ね50 μm×1 mm)に取り組み、それぞれの伝送線路において、今までで最も広帯域な分光チップの開発に成功した。マイクロストリップ線路型THz分光チップを用いて、アミノ酸水溶液やタンパク質水溶液など、従来のTHz分光法では測定が困難な系でも簡便に測定できることを示した。その後、光ファイバ結合型素子に発展させ、THzリモートセンサーヘッドとして機能させることに成功した。この光ファイバ結合型素子の研究により、分光チップの新規高機能化を果たした。
[主な研究論文 J. Kitagawa et al.: Appl. Phys. Lett. 89 (2006) 041114]
 THz分光の新規応用  THz時間領域分光法を用いてドルーデ型伝導を示す系が主に研究されてきたが、本手法の非ドルーデ伝導体への適用に初めて成功し、キャリアダイナミクスのプローブとしてのTHz分光技術の更なる発展に貢献した。電子がドープされたナノポーラス酸化物12CaO・7Al2O3の直流伝導度は、あるキャリア濃度の範囲でホッピング伝導を示す。THz時間領域分光法により、ホッピングキャリアの局在性がTHz伝導度にも反映され、この物質がデバイ応答に類似の非ドルーデ型応答を示すことがわかった。
[主な研究論文 J. Kitagawa et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 75 (2006) 084715]

2001年−2002年
価数揺動物質及び近藤半導体を対象とした熱電変換物質の研究  次世代熱電変換材料として期待されている近藤半金属、近藤半導体であるCeNiSn,CeRhSb,CeRhAsおよび近藤金属であるCePtSnが同じ結晶構造に属することに注目し、これらの熱伝導度を測定した。その結果、価数揺動状態を特徴づける近藤温度の上昇と共に格子の熱伝導度が抑制される一方、擬ギャップの形成が格子の熱伝導度の増大に寄与することを明らかにした。またこれらの実験結果を説明する現象論的なモデルの構築にも成功した。この研究は格子の熱伝導度を下げることが至上課題である熱電変換材料の開発において、一つの有用な指針を与えるものである。
[主な研究論文 J. Kitagawa et al.: Phys. Rev. B66 (2002) 224304]

1995年−1998年 (博士課程) & 1998年−2001年(日本学術振興会特別研究員)
Ce3Pd20Ge6における四重極子秩序のメカニズムの解明および四重極子秩序を示す物質の探索,開発の研究  希土類の磁性を担う4f電子の自由度には四重極子モーメント(軌道の自由度)がある。四重極子モーメント自由度の凍結は四重極子秩序という相転移として現れる。博士課程において、Ce3Pd20Ge6が重い電子状態と強的四重極子秩序(四重極子モーメントが同じ方向に並んでいる)が共存した物質であることを発見した。これは今までに報告がなかった新しい共存状態である。また,DyPd3S4が反強的四重極子秩序を示すことを発見した。これらの研究は、今までのスピンや電荷の自由度の研究に重点が置かれていた磁性体において軌道の自由度の重要性を示した。
[主な研究論文 J. Kitagawa et al.: Phys. Rev. B53 (1996) 5101, Phys. Rev. B57 (1998) 7450]



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