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暫定版です。順次改訂していきます。


生物活動と環境の関わりに関する研究

生体を構成する有機物を鍵として、宇宙や地球の歴史という時間スケールで生物活動と環境との関わりを明らかにすることを目指しています。

1. 宇宙・原始地球環境における生体関連有機物の生成機構の解明(特にアミノ酸、ペプチド、タンパク質)
2. 炭素質隕石、堆積岩、堆積物などの環境試料に含まれる有機物の分析による「生物活動と環境変化」の関わりの解明
3. バイオポリマーの生成機構や機能発現機構の解明とその工学的応用
4. 環境中における有機物分解に関する研究


1. 宇宙・原始地球環境における生体関連有機物の生成機構の解明

 アミノ酸、ペプチド、タンパク質などの生命を構成する有機物が、生命の誕生する以前に、宇宙環境や原始地球環境のどのような環境条件で、どのような合成経路で生成され、生命の誕生に至ったかについての研究を行っています。 我々地球上の生命が宇宙において特殊な存在なのか普遍的な存在なのか、生物とはどんな存在なのかを知る手がかりが得られます。また、ペプチド分子が酵素活性などの機能を獲得した過程を知ることによる人工タンパク質の構築原理や、アミノ酸の光学異性体の選択則を明らかにすることによる新規な不斉合成方法の構築などの応用展開も目指しています。

2. 炭素質隕石、堆積岩、堆積物などの環境試料に含まれる有機物の分析による「生物活動と環境変化」の関わりの解明

 生命体を構成する有機物は、死後、大部分は水や二酸化炭素まで微生物により分解されます。しかし、その一部は分解を免れ、堆積物中に取り込まれる。堆積岩中で有機物は、地熱や圧力を受けてすこしずつ化学構造が変化していきます。こうして堆積岩中に集積した有機物が、石油・石炭・天然ガスである。化石燃料として鉱業的に利用できるほど集積していなくても、堆積岩中には過去の生物活動の痕跡である有機物が含まれています。この有機物の組成や分布を解析することにより、過去の生物活動の様子や、その生物が生きていた時代の環境情報を読み解くことが可能なります。 これまでの地球の歴史の中で、地球環境の変化により生物の進化が誘起されてきたのと同様に、生物活動によって地球環境が変化してきました。この生物と地球が、お互いに影響を及ぼしあいながら進化してきました。その様子を、堆積岩中の有機物を分析することにより、読み解くことを目指しています。 また、実験室内でのモデル実験を通じて堆積岩中での有機物の化学変化を明らかにする研究も進めています。これらの研究の成果は、化石燃料の探鉱などに寄与することができます。 一方、宇宙より地球に届けられた隕石は、46億年前に太陽系が誕生したときの太陽系のもとになった物質が、熱変性などをほとんど受けることなく保たれている原始太陽系の化石であると考えられています。この隕石中に含まれる有機物の分析を行うことにより、太陽系誕生時の様子を明らかにすることができる。また、地球以外でも生命が誕生する可能性も検討することができます。隕石の分析に加えて、小惑星探査によるサンプルリターン試料の分析やや国際宇宙ステーション上で宇宙塵試料を採取し分析するというプロジェクトにも参加しています。

3. バイオポリマーの生成機構や機能発現機構の解明とその工学的応用

 生物は様々な高分子有機物を生産しており、実際に産業として利用されている材料も多く存在しています。しかし、まだ用途開発がなされていなかったり、注目されていない材料も存在します。植物が分泌する樹脂では、天然ゴムが産業的に古くから広く利用されているが、それ以外の樹脂の利用は少ないのが現状です。そこで、メタセコイアなどの樹脂からコハクを人工的に合成する研究を進めています。コハクは、装飾品や絶縁材料などとして用いられていますが、植物の樹脂が堆積岩中で化石化したものであるため、稀少品です。そこで、化石化反応を加熱などの手段により早めることにより人工的にコハクを合成し、建材や絶縁材料など広く使用できる材料の開発を目指しています。 また、微生物の中には、生育環境を維持するために多糖類を菌体外に分泌するものもあります。この多糖には、水分を吸収する性質や重金属を吸着する性質があります。一方で微生物産生多糖は、生分解性が高い性質があります。そこで、環境に優しい環境保全素材としての応用が期待されます。

4. 環境中における有機物分解に関する研究

 1.における前生物的なアミノ酸合成の研究では、紫外線照射により、アミンやニトリルなどの単純な化合物からアミノ酸などを合成しています。これらの反応の多くは、水分子が解離し生成したヒドロキシラジカルにより進行します。このヒドロキシラジカルは、一般に有機物の合成より分解に利用されます、そこで、この紫外線照射装置を用いて、環境負荷物質である難分解性有機物の分解反応に応用します。効果的な照射条件の検討とともに、分解により生成する有機物の分析も行い、より有害な副産物がないことを確認します。例えば、一般にはアセトニトリルの光分解反応として考えられているアセトニトリル水溶液への紫外線実験で、アミノ酸が生成することを見出しています。このように副生するのがアミノ酸であれば害はないが、分解させようと思った出発物質よりも有害な物質が微量ながら生成する可能性もあります。そのような副産物にも考慮した有機物分解反応の研究を進ています。


参加中のプロジェクト、共同研究など

1.小惑星探査機「はやぶさ」
「はやぶさ」は、宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部が進めている小惑星探査機です。2005年に、小惑星「ITOKAWA」に着陸し、表層の岩石試料の採取を試み、2010年に地球に帰還しました。地球や月は、太陽系ができた後に熱的変成作用を強く受け、太陽系が生まれた時の情報を保っていません。しかし、熱的変成をほとんど受けていない小惑星の岩石試料は、太陽系の成り立ちを考える上で非常に重要な情報を与えることが期待されています。地球に帰還後、国内のいくつかの研究機関で初期分析が行われていますが、九州大学の奈良岡教授らと共に、この小惑星試料中の有機物分析を行っています。残念ながら、まだ小惑星由来の有機物は検出されていません。

2.小惑星探査機「はやぶさ2」
「はやぶさ2」は、宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部が進めている小惑星探査機の第二段です小惑星「1999JU3」を目指して、2014年の打ち上げを目指して準備が進められています。「はやぶさ」と同様に、現地での観察を行った後、試料の採取が行われ、2020年に地球に帰還することが計画されています。小惑星「1993JU3」は、炭素質隕石のふるさとと考えられており、アミノ酸などの有機物が存在することが期待されており、生命の誕生のもとになった有機物の起源を探る上で非常に重要な研究対象です。特に、小惑星に衝突体をぶつけて、クレーターを人工的に作り、小惑星内部の新鮮な試料を採取するという新しい実験も計画されています。現在、衝突実験や、試料採取のための汚染管理などの準備に携わっています。

3.アストロバイオロジー実験「たんぽぽ」
国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」で、宇宙空間における生命の伝播の可能性や、生命の誕生に必要な物質の運搬体と考えられる宇宙塵を生物による汚染なしに回収すると言う実験計画を、東京薬科大学山岸教授が代表となり、提案しています。2013-14年頃に濃くs何の宇宙ステーション補給機「HTV(こうのとり)」で打ち上げられ、1年から5年間かけて宇宙塵試料の採取、あるいは、有機物の曝露実験などを行い、地球に試料を持ち帰り分析を進めることになっています。この中で、有機物の分析などを中心に、実現に向けた準備活動を進めています。

4.火星探査「MELOS」生命探査
「MELOS」は、宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部が進めている火星探査機です。2020年代の初頭に打ちあがられることが計画されています。火星探査の一つのターゲットとして、生命探査が取り上げられています。火星人が居るとは考えられていませんが、微生物が存在する可能性については多くの研究者が指摘しています。代表的なものとして、火星から飛来した隕石の中に微生物の存在を示唆するいくつかの証拠を見つけたという報告があります。また、火星の表層にメタンが検出されており、その分布が変化しているという報告があります。地球上でもメタンの多くは微生物が産生しているので、火星にもメタンを産生する微生物が存在するのではないかと考えられています。メタン産生菌は地中深くに存在している可能性が高いので、見つけることは困難です。そこで、「MELOS」では、火星の表層付近に存在すると期待されるメタン酸化菌(メタン産生菌によって作られたメタンを食べて生きていく微生物)を見つけることを目指しています。探査計画では、微生物を選択的に染色し観察する蛍光顕微鏡と、土壌試料中のアミノ酸を分析するという2つのアプローチが計画されています。その中で、アミノ酸分析を行うための手法・装置の開発に参加しています。この研究は、宇宙航空研究開発機構、東京薬科大学、横浜国立大学、兵庫県立大学などとの共同研究です。

5.極限環境における生態系・有機物動態解析
ここでは、南極昭和基地付近の内陸湖沼をターゲットとしています。南極では、気温が低いという点、紫外線や宇宙線が強いと言う点から、生物活動にとって非常に厳しい環境になります。このような環境で、生物がどのように環境に適応・進化していくのかを、有機物の変化・移動を明らかにすることで明らかにすることを目的にしています。また、気温上昇による影響や、オゾン層破壊による紫外線強度の増加など、現在、注目されている環境変動の影響が最も顕著にかつ最初に現れると考えられているために、今後の地球の変化を考える上での格好のモデルとなり得ます。そこで、南極観測隊が採取してきた土壌・雪氷・生物試料を対象とした研究を進めています。この研究は、安田女子大学、横浜国立大学、玉川大学、大阪大学などとの共同研究です。