研究テーマ
近年の私達の研究の焦点を下記の4つのテーマにまとめました.複数のテーマが重なり合う研究も多く実施しています.
神経回路網の機能分化に関する数理モデル
均質な構造をもつネットワークから,部分ごとに異なる機能をもつ構造が自発的に現れる現象を機能分化(functional differentiation)と呼びます.
脳は典型的に機能分化したシステムであり,その形成には遺伝的要因だけでなく,発達過程における学習も深く関与していることが知られています.
この研究テーマでは,リカレント・ニューラルネットワーク(RNN)を中心に,ネットワークがどのようにして機能分化を獲得するのかを数理的に探求しています.内部状態をもつRNNは自己の状態に基づいて動作を決定するため,脳の動的な情報処理をモデル化する上で有効です.
研究では,リザバーネットワークの進化,情報理論的拘束による機能分化の誘発,リズム生成や生物学的タスクを行うRNN内部における機能分化の分析など,脳科学と人工知能の境界領域に位置する多様なアプローチを展開しています.

関連する研究実績
関連論文など
- Yuki Tomoda, Ichiro Tsuda, Yutaka Yamaguti, Emergence of Functionally Differentiated Structures via Mutual Information Minimization in Recurrent Neural Networks, arXiv preprint
arXiv:2507.12858 (2025) - Yutaka Yamaguti, Ichiro Tsuda, Functional differentiations in evolutionary reservoir computing networks, Chaos, 31, 013137 (2021), DOI: 10.1063/5.0019116
関連する卒研・修論テーマ例
- RNNを用いた複数リズム生成におけるニューロンダイナミクスの解析
- RNNを用いたシータ位相歳差現象のモデルにみられる興奮性・抑制性ニューロン間の役割分化
- RNNによる信号再分離タスクにおけるMINEを用いた機能分化構造の誘発
- リザバー計算モデルによる強化学習とその機能分化
AIへのカオス・フラクタル理論の応用

カオス理論は時間的に不規則で予測困難な現象を記述するための数学的枠組み,フラクタル理論は自己相似的で複雑な構造を特徴づけるための理論です.
これらはいずれも,脳の動的なはたらきや生物に見られる複雑な情報処理を理解する上で欠かせない概念と我々は考えています.
本研究テーマでは,カオスおよびフラクタルの理論を人工知能(AI)に応用することで,複雑性を内包した知能の可能性を探究しています.
たとえば”AIに本物のカオスを作ることができるか”,”カオス的ダイナミクスをもつAIはより高い柔軟性や創造性を示すのか”,”フラクタル的構造をもつ表現や学習過程をAIに導入できるのか”,といった多様な問いを出発点に研究を進めています.
技術的には,深層学習の諸手法,とくにGAN(Generative Adversarial Network)や拡散モデル(Diffusion Model)などの生成モデルを活用することが多く,カオス的・フラクタル的構造をもつデータや表現の生成・解析を通じて新しい知的システムの原理を探っています.
関連する研究実績
関連する発表論文など
- Takaya Tanaka, Yutaka Yamaguti, Cyclic image generation using chaotic dynamics, PLOS Complex Systems, 2(1): e0000027 (2025) DOI: 10.1371/journal.pcsy.0000027
- Yuki Tanaka, Yutaka Yamaguti, Evaluating generation of chaotic time series by convolutional generative adversarial networks, JSIAM Letters, 15, 117-120 (2023) DOI: 10.14495/jsiaml.15.117
関連する卒研・修論テーマ例
- 拡散モデルにより生成された海岸線のフラクタル解析
- 敵対的生成ネットワークを用いたカオス時系列生成
- CycleGANを利用した循環的変換による連続的画像生成
- 1/fノイズ生成を学習させたRNNの性能評価
深層AIにおける進化的手法
深層学習で一般的に用いられる勾配降下法(gradient descent)は,非常に強力な最適化手法ですが,複雑な内部ダイナミクスをもつシステムや非連続的な関数,さらには微分不可能な構造を含むモデルでは適用が困難になる場合があります.
そこで本研究では,生物進化に着想を得た進化的手法(evolutionary methods)―たとえば進化戦略(evolution strategies)や遺伝的アルゴリズム(genetic algorithms)―を導入し,ニューラルネットワークやリカレント構造などの複雑なモデルを学習させる試みを行っています.
こうした進化的手法により,従来の深層学習では扱いにくかったカオス的システムや非線形ダイナミクスをもつネットワークに対しても学習・最適化を可能にすることを目指しています.
進化と学習を統合的にとらえ,生物的原理をAIに取り込む新しいアプローチを開拓しています.

関連する研究実績
関連論文など
- Yutaka Yamaguti, Ichiro Tsuda, Functional differentiations in evolutionary reservoir computing networks, Chaos, 31, 013137 (2021), DOI: 10.1063/5.0019116
- Yutaka Yamaguti, Ichiro Tsuda, Mathematical Modeling for Evolution of Heterogeneous Modules in the Brain, Neural Networks, 62, 3-10 (2015) DOI: 10.1016/j.neunet.2014.07.013
関連する卒研・修論テーマ例
- World Modelsを用いた株式投資戦略学習
- リザバー計算モデルへの進化的手法の適用による教師信号の選択学習
大規模言語モデルの理解と応用

大規模言語モデル(Large Language Models; LLMs)は,膨大なテキストデータを学習することで言語理解や推論,創造的生成を可能にする人工知能の一形態です.
本研究では,これらのモデルを人間社会の前に現れた新しい複雑系として捉え,その性質を探究しています.
特に,多様性(diversity)や柔軟性(flexibility)といった観点から,大規模言語モデルの表現・振る舞いを分析しています.
さらに,こうしたモデルを人間中心の社会にどのように活かせるかという視点から,応用的研究にも取り組んでいます.
具体的には,教育・読書支援・育児支援など,人間の暮らしに寄り添う新しい使い方を提案する研究を進めています.
理解と応用の両面から,AIと人間の関係を再構築する新しい枠組みを模索しています
関連する研究実績
関連する卒研・修論テーマ例
- AIリテラシー教育のための対戦型チューリングテストの開発
- 生成AIを利用した視覚支援アプリの開発
- 大規模言語モデルの出力多様性の分析