「目標を立てたのにうまくできない・・・」
「計画していたのに、気づいたらやらないまま時間が過ぎていた・・・」
こんな経験ありませんか。
そのような場合、「目標や計画をうまく立てることができていなかった」ことが、原因の1つとして考えられます。
これまで多くの人が、家庭や学校で今学期の目標や計画を立てることをしてきたと思います。でも、「目標や計画の立て方」を習ったことがある人はそういないのではないでしょうか。
目標や計画を立てるとき、その「立て方」を知っておくことがとても大切です。というのは、「立て方」を知らないままに目標や計画を立てることが、「結局できなかった」という結果の1つの原因になっていることがわかってきたからです。
ここでは、「目標を立てたのにうまくできなかった・・・」ということにならないために大事な「自己調整学習」についてお話をします。生徒さんや学生さん、保護者の方にもわかりやすいよう、なるべく専門的な言葉を使わないで説明したいと思います。

- 自己調整とは
- Step 1 学習する前
- Step 1-1 目標を立て、ミラーリングする
- Step 1-2 どのような方法でやるかを考える
- Step 1-3 やる気を整える
- Step2 学習をしている間
- Step 2-1 客観的に自分を見つづける
- Step 2-2 効果と効率にこだわる
- Step 3 学習が終わった後
- Step 3-1 自分の状況を振り返る
- Step 3-2 気持ちを確認する
自己調整学習とは 自分を成長に導くための学習(や練習)のやり方で、いろいろな場面で使うことができます。「調整」という名前がついているように、「進め方」「やる気(モチベーション)」「行動」を調整しながらやっていきます。
「自己調整学習と呼ばれていますが、勉強だけでなくスポーツや習い事、家事や健康管理、仕事などいろいろなことに使うことができます。「自己調整練習」「自己調整家事」「自己調整健康管理」のようにです。
ただ、一つ一つ分けて説明していくと長くなるので、このあとの説明においては、全部をひっくるめて「自己調整学習」という言葉を使っていきます。 さて、自己調整学習をするときに大切なことがあります。次の3つです。
・自分にはできるという気持ち(自己効力感)
・目標
・自己調整学習をするための方法(自己調整学習方略)
まず初めに、なぜこの3つが自己調整学習に大切なのかを知ることから始めましょう。
何のことでも当てはまりますが、私たちは「自分にはできる」または「できるかも・・・」という気持ちがないとなかなか行動を起こしません。「できるかも」という期待を全く持てなかったら、何に対しても「挑戦しよう」「やってみよう」という気持ちにはならないですね。
ということで、自己調整学習をするときは「どこまではできている」「どこまではやっている」という確認がとても大事です。
「今できること」や「できていること」は理想には遠くて、「あ~ぁ」とやる気が出ないかもしれませんが、何かできていることはあるものです。それを自分で探して、できないことばかりを見るのではなく、自分ができていることを認めるのが自己調整をスタートさせるカギです。
「ここまではできている」という気持ちを持って、「じゃあ、次は○○までしてみよう」と次のステップに踏み出すのです。小さくても、ちょっとずつでもいいのです。進むことが大事です。
次に大事なのが「目標」です。これも何においても言えることですが、「何のためにやっているんだろう・・・」と漠然と取り組むと、やる気はなくなっていくものです。よって、目指すものがはっきりしていること、つまり、「目標」をきちんと持つことが大切になります。
「できる」という気持ちと目標が整ったら、いざ勉強や練習に取りかかるわけですが、同じ時間を使うなら効率的、効果的にできるようにしたいですね。1時間で1つのことが進んだりできるようになったりするよりも、2つの方がいいですね。成果の差を生み出すのは「やり方」です。よって、「方法」も大切になるわけです。
「合うやり方」というのは、人によって違います。数学がどんどん解ける人もいれば、そうでない人もいます。運動なら一通りなんでもできる人もいれば、そうでない人もいます。すぐ眠くなる人、部活で疲れている人、いろんな人がいますね。それぞれの人に「合うやり方」「必要なやり方」があります。自分が成長できるように調整しながらやっていく方法が大事ということです。
自己調整学習は、3つのステップをクルクルと回りながら行います。

さて、「自己調整」と聞くと、なにやらとても難しいことをするイメージを持つ人もいるかもしれないので、ここで少し実際の調整の例を見てみましょう。
例えば、
・「なんか周りが騒がしくなってきた。集中できないから図書館に行こう!」と勉強場所を変える
・「練習を毎日午後に20回することにしているけど、水曜日の午後は友達と会うことにしたから、その分は午前中に済ませちゃ おう」と計画を変える
・「資格の勉強をするときは、図書館の窓側のお気に入りの席でやろう」と気分をあげる工夫をしてみる
・「トレーニングの時間だけど、あー、疲れたし、眠い。ちょっと寝てからやろう」と、体調ややる気の管理をする
・「このやり方を友達がしていたからやってみたけど、自分には合っていない気がする」と思い、インターネットでほかの方法を 探してやってみる。
このようなことが自己調整です。どうですか。「そんなに難しいことではないのかも・・・」と、肩の力を抜いてこの先も読んでくれるとうれしいです。
それでは、3ステップの話に戻ります。それぞれのステップで何をすればいいのかを見ていきます。
Step 1 学習する前
ここでは、大きく3つのことをします。
1.目標を立て、それを見て「自分ならできる」と思えるか確認し、計画を立てる
2.どのような方法でやるかを考える
3.やる気が出る準備をする
Step 1-1 目標を立て、ミラーリングする
これまでたくさんの生徒さん、学生さんが目標を立てるのを見てきました。そして、自己調整するのが難しい目標の立て方をしている人が多いことに気づきました。どういうことかというと、
・よく考えずにパパっと立てる
・目標は立てても計画を立てない
・自分が本当にできるかどうかじっくり考えないで立てる
・終わった後のワクワク感を感じない目標や計画を立てる
このようなことです。
目標は今の自分がどこまでできているか、どこまでやっているかを踏まえて、具体的な計画を考えながら、自分の気持ちも確かめながら立てるものなので、パパっと立てることができるものではないということをまず知ってほしいと思います。
自分のことをいろいろ考えて目指す目標を考えようとすると、少なくとも30分ぐらいはかかります。「んー、これならできるかな。いや、ちょっと無理そうだからこうしよう。いや、もう少しできるかな」と考えながら立てます。
それでは、目標の立て方です。
目標は自分が「そうなりたい」「こうなれたらカッコいい」「できたら達成感」と思えることに設定しましょう。なぜなら、本来目標は一番やる気を引き出してくれるものだからです。
目標には、自分を動かすためのドライブフォースの役割をしてもらいます。
でも実際は、多くの人が重荷やプレッシャーになったり、面倒くさいものと感じたり、すぐに忘れたりすることを目標として設定していています。そうすると、目標が全くやる気を引き出す働きにならず、結局「しなかった」ということになってしまします。

① 今の自分のレベルや出来具合をしっかり考えて、今よりも成長した自分になれる目標の内容にする
すぐに簡単にできるようなものにはしません。 例えば、今もうすでに毎日遅刻しないように学校に行っている人が、「遅刻しないように学校に行く」という目標を立てることがあります。これはすでにできていることなので「よし!頑張るぞ!」「できたら達成感」という気持ちになりません。つまり「成長」を生み出す目標にはならないのです。今の自分はどこまでやっているのか、できているのかを踏まえて、自分をちょっとでも成長させる内容にすることが大切です。
② ミラーリングする。鏡を見るように自分のことを考え、目標と気持ちが一致しているか確認する
「達成したい気持ちはあるけど難しすぎる」「途中でくじけそう」という気持ちがあるときは、目標のレベルや内容を修正しましょう。 高い目標を立てることはいいことです。ただ、やる気が合っていないと、名前負けならぬ目標負けしたり、自分で自分にプレッシャーをかけてかえって避けてしまったりしてしまいます。目標に対して「これはやってやる」「これをやらないと後悔しそうだからやるぞ」という気持ちを持てるものにしましょう。
③目標に対する気持ちの確認をしたら計画を考える
「自分が動くにはどうしたらいいかな」と考えながら計画を立てます。 例えば、
・毎週月曜日の朝11時から1時間程度、図書館でする
・ベッドに寝転ぶ前に15分間する
・月、水、金曜日の夕食後に10問ずつ解く などです。
このようになるべく具体的に決めておくと、自分で自分に思い出させる(リマインドさせる)ことができます。
「11時」という時間を見たら「あ、計画していた時間だ」とか、「さ、寝るか」とベッドに行ったら「あ、そうだった」と気づきやすくなります。
このように自分が動くように、調整できるように仕掛けを作っておくのです。
さて、計画を立てるときに、「スキマ時間にする」という計画を見ることがよくあります。「スキマ時間にする計画」には少し気をつけましょう。
「スキマ時間にする」という計画を立てた人たちに、1か月後にどうだったかを聞いたところ、予定したことを行っていた人は1割程度だったということがありました。
「スキマ時間にする計画」は「時間を惜しんで使う良い計画」に思えるのですが、スキマ時間は結構たくさんあるので、「どこのスキマ時間か」決めていないと、「後ですればいっか」となりがちです。
もう一つここでとても大事なのが、その目標だけのことを考えて計画を立てないということです。
あなたには今考えている目標や計画のほかにもやるべきこと・やりたいことがあると思います。睡眠や食事などの基本的な生活の時間も必要です。ほかにすべきこと・したいこともあるでしょう。それらのバランスを考えながら、今立てている計画のための時間をどう取ったらよいかを考えます。
例えば、4月から8月の5カ月の間に50のやるべきことがある場合を考えます。単純に「1ヶ月に10ずつ」という計画をパパっと立てるのはキケンです。6月は他のことで忙しくなりそうなことがわかっているのであれば、あらかじめ6月の計画は少なくするなどの調整をします。
ほかにも、例えば1週間という期間で計画を立てるとき、水曜日に何か予定が入っていれば、それを踏まえた計画にします。このようにじっくり先のことや自分の生活パターンのことなどを考えて、自分ができるように計画を立てるのがコツです。
よく考えないでパパっと立てた目標や計画は、実行されないことが多いようです。じっくりといろいろ考えながら目標を立てないと、心や頭に残っておらず、結果「忘れてた・・・」という結果になってしまいます。
せっかく考えるのですから、忘れないような目標や計画にしましょう。
私たちが成長や前進のために、何かに挑戦しようと思う気持ちになるためには、「自分にはできるという気持ち」や「達成感」というプラスの感情が必要です。
そして、そのような気持ちは、偶然やっていて「できた」となるよりも、あらかじめ決めていた目標を「達成したぞ!」「計画していたことをやったぞ!」という時の方が強く感じます。自分が忘れないような、そして自分が動くような目標や計画を立てることが大切です。
④ 時間や計画の配分を決めたら、予定をこなせているかを確認する振り返りの日も必ず計画に入れます。
学習や練習を行う度に振り返るのがベストですが、最初のうちは、〇週間に1回などでもいいです。そして、「計画通りにできていない」「上達している感じない」という状況が続く場合は、日程を変えたり、この後で説明するやり方を変えたりして、目標達成に近づくように調整をします。
Step 1-2 どのような方法でやるかを考える
もし、あなたが立てた目標が苦手なことにチャレンジするものだととしたら、すぐに学習や練習を始めるのではなく、「どんなやり方で行うと、効率的で効果があるのか」をまずリサーチしましょう。
私たちはついつい自分が知っている・やったことのあるやり方で行おうとします。目標があなたが得意なことに関することなら、あなたが知っている方法でいいのですが、苦手なことに取り組む場合は、ここで少し時間をとって調べましょう。
・周りの人(友達・先輩・兄弟・親・先生など)に、どういうやり方をしているか聞いてみる
・本やインターネットでやり方を調べてみる
私がこれまでに行った調査の一つに、「英語が何年も苦手な人たちの勉強方法」というのがあります。「英語は苦手」という60人ほどが参加してくれたのですが、調査の結果、参加者の多くがほぼ同じ方法で勉強をしていて、しかも何年もその方法で勉強をしていたことがわかりました。
苦手なことに対して積極的に「勉強(練習)方法を調べましょう」と言われても気が進まないのはわかります。ですが、せっかく勉強時間を使うわけです。慣れている方法であまり効果が感じられないときは、ほかの方法を探してみることから勉強や練習を始めてみましょう。
Step 1-3 やる気を整える
私たちは、自分が好きなことやしたいことに対しては自然とやる気が出てきます。それには、「やる気ホルモン」と言われている神経伝達物質ドーパミンの脳への働きが関係していることが科学的にわかってきています。
脳の専門家の方たちによると、やる気を出すドーパミンが増えるとき、私たちはその物事に対してワクワクする気持ち、楽しみに思う気持ちを持っているそうです。 考えてみると、確かに自分の好きなスポーツをしたり観たりするとき、ゲームをするとき、コンサートや友達と遊びに行くときなど、ワクワクして楽しみにしている自分になっているのを想像することができます。
目標に向かうときも、もちろん「やる気」が必要ですね。ワクワクとまではいかなくても「期待感」は持ちたいですね。どのようにこの期待感やワクワクする気持ちを持てばよいのか見ていきましょう。
方法1▸「この計画をやり終えたら、きっと自分は〇〇になっている!」と成長した自分を想像する
勉強や練習、苦手なことへの挑戦は、苦しいこと、難しいこと、わからないこと、できないことがたくさんあるイメージですね。億劫(おっくう)になる気持ちはわかります。しかし、避けるのではなく、ちょっとずつでもこなしていけば前とは違う自分を得ることが必ずできるものです。この想像ができると自己調整にはベストです。
方法2▸ 進み具合を見える化する
今、「この先の自分の成長を想像できるとベスト」と伝えましたが、実際、効果を実感できるのは先なので、最初は頑張っていてもだんだんやる気がなくなってしまうものです。
そこでやってほしいのが、どのぐらい計画を行ったかが見える工夫です。 紙に日づけと計画を書いて、○×△や数を記録していくものでもいいですし、学習や計画のためのアプリを活用するのもいいですね。
このときに大事なのは、いきなり難しいことに挑戦しないことです。まずは、できることから取り掛かります。そして、ちょっとずつレベルを上げていきます。
自分ができないことばかりに目をむけないでほしいです。あなたにはできることもきっとあるので、できることからやるように計画して進めましょう。
予定通りに進んでいることが目に見えると、とても気持ちのよいものですよ。達成感を感じることができます。「終わらせると清々しいだろうな」という期待感を心に準備してみてください。
方法3▸ 特別な持ち物や場所を決める
計画に立てたことをするときは、「この場所でする」や「このノートを使う」など、特別なことを決めてみるのもやる気に良い影響を与えます。
ときどき、カフェでタブレットを開いて黙々と仕事や勉強している人を見ることがあります。おそらくその人たちにとっては、会社や自宅ではなく、カフェという空間が集中でき仕事がはかどる場所なのです。カフェではなくても、学校の図書館などにお気に入りの席を見つけるのもいいですね。
私が教えている学生の中には、気持ちを上げるために「この勉強をするときはこのペンを使う」とか、「ルーズリーフバインダーを新調してみました」などと話してくれる人もいます。
スポーツ選手やミュージシャンなどもパフォーマンスとやる気をあげるために、日によって使うアイテムを変えたりすることがあるようです。みなさんもやる気の準備として、このような工夫をしてみてはどうでしょう。
ここまで「STEP 1 学習をする前」のお話でした。 いかがでしたか。
「面倒くさいなぁ」「計画立てなんて、サッサと終わらせればいいじゃん」と思った人もいると思います。その気持ち、とてもわかります。私も学生の頃はそうでしたし、そういうたくさんの人を見てきましたので。
ただ、簡単に立てた目標・計画よりも時間をかけて立てたもののほうが、不思議とそれを大事に思う気持ちが出てきて、結果、計画をやろうとするんです。実は、この自分が行動できるような目標・計画を立てる作業が、実はみなさんのやる気を整えてくれるのです。
Step 1がしっかりしていると、Step 2、3もうまく流れます。Step 1が適当だと、Step 2、3も適当になったり、Step 2、3には進まず終わってしまうことがあります。自己調整を回すために、Step 1に少し時間を取って目標や計画を立ててみましょう。。
。
Step2 学習をしている間
Step 2 「学習をしている間」で何をどのようにするかは、Step 1で立てた「目標、計画、やる気の準備」がもとになります。
「学習をしている間」というのは、①目標達成の期限までの間と、②日々の勉強や練習をしている間という意味があります。どちらの「間」でも行うことは同じで、自分を客観的に見ながらコントロール(調整)していきます。
1. Step 1で立てた計画や方法で目標を達成できそうか、客観的に自分を見ながら進める
2.効果的に、そして効率良く進めるように工夫をする
Step 2-1 客観的に自分を見つづける
次の例を使って説明します。
目標:月末までの1ヶ月間に60題を終わらせる
計画:月曜、水曜、金曜に5題ずつやる(5題×3日×4週)
放課後に図書館で1時間ぐらい勉強して帰る
60題全部終わったら、好きなマンガを買う
Step 2で大切なのは、客観的に自分を見続けることです。
計画が進んでいるかどうかを自分ではっきりと意識するために、なにか「記録」をつけるといいです。 「はい、今日の予定完了~♪」で済ますのではなく、計画表やアプリなどに「終わった」というマークや「〇%完了」などの数字をつけるのです。そのようにして、自分がしたことを少し離れて見ることが「客観的に見ること」です。
すると、「おぉ、進んでいる」と、自分ではっきり意識することができるので、自然と効力感や自信を感じ、やる気にもいい影響があります。結果、自己調整がうまく回ります。
さて、問題となるのは計画通りに進めていないときですね。
計画通りに「できていない」ことを自分で認めるのはイヤなことかもしれませんが、そこを避けないでほしいと思います。たとえ計画の10分の1しかしなかったとしても、それを記録することが調整に繋がるので記録をしましょう。 そして、計画通りに進んでいない理由を探します。必ず理由があります。例えば、
・苦手科目を1日に5題するのはきつかった
・図書館に行ったら、好きな本や雑誌に目が行って読んでしまう
・放課後に、勉強に1時間もとれない
・わからないことが多くて進まないうちに、やる気がなくなった などです。
この理由探しをしないと、「計画通りにやるのダルイ」や「あぁ、もういいや」と考えて勉強や練習が止まってしまうことになってしまいます。それはもったいないです。
計画通りに進んでいない理由探しは「調整」の方法を見つけるためなので、ここでしっかりと自分を見つめましょう。
・「苦手科目のことを1日に5題するのがきつい」のであれば、1日2題に変えて、毎日(30日間)することに変えてみます。慣れ てきたら、後半は1日5題にもどして20日間ぐらいで終わらせるようにしてもいいですね。
・「図書館に行ったら、好きな本や雑誌に目が行って読んでしまう」場合、本好きはいいことですが、課題をする場所としては良 い場所ではなかったということです。集中できたり、気分が落ち着いたりする他の場所でやることに変えましょう。
・「放課後、勉強に1時間もとれない」というようなことは、始めてみないとわからないことかもしれません。友達が話しかけて きたり、部活が入ったり、ほかの用事ができたりと想定外のことは起こるものです。だからといって、すぐに「できない!」と なるのではなく、どうにか計画した1時間を作る方法を考えましょう。例えば、放課後にするのは30分などに変え、残りの30分 は他に探します。15分ずつに分けてもいいですね。または、月・水・金曜日以外にもやるという調整方法もあります。
・「わからないことが多くて、やる気がなくなる」場合もありますね。一人では、自分の力だけではどうしようもないことは誰に でもあります。助けてくれそうな人がいれば「教えてほしいんだけど」と聞いてみましょう。学校や塾などに「学習相談コーナ ー」のようなものがあれば、それらをどんどん利用しましょう。
聞ける人や場所がないときは、この時代です。インターネットで探せば、ヒントになることが見つかるので探してみましょう。
この「聞く」や「探す」をできるかどうかが大きな分かれ道です。勉強や練習は、問題を解いたりトレーニングをしたりすることだけではありません。「どうやってやるか」を考えたり、見つけようとしたりすることも勉強や練習のうちです。
Step 2-2 効果と効率にこだわる
Step 2-1と同じく、Step 2-2も「Step 1 学習する前」に考えた「計画」や「方法」「やる気の準備」とつながっています。
「学習する前」にそれらを整えておくことで、STEP 2で工夫や改善をすることができるということです。つまり、Step 1で目標・計画を決めておかないと基になるものがないので、いつもスタート地点から始めることになります。
では、効果的に効率的に進めるためのコツを見ていきましょう。
・考えた計画や方法でやってみて、効果が上がっているか客観的に確認する
「よし、このやり方でやろう」と決めたとしても、本当にそれで効果が出ているのか、少し離れて自分を見てみましょう。勉強や練習をする度でもいいですし、〇日に1回などでもいいです。そして「なんかうまくいっていないなぁ」「合っていないなぁ」と感じたら、人に聞いたり調べたりして、ほかの方法に変えて調整しましょう。
・効率良く進んでいるかを客観的に確認する
先にも書きましたが、私たちはついつい同じ方法で物事に取りかかりがちです。「本当に、これで効率がいい?」と自問して考えましょう。時間は限られていますし、みなさんはいろいろなことをしたいだろうし、しなければなりませんから、効率良く進められるかはとても大事です。 効率良くしたいときは、「とりあえず始める」や「好きなものから始める」などではなく、まず手順を考えましょう。
一つの例を挙げます。数学が苦手なSさんに、計算問題と特に嫌いな証明問題の宿題が出ています。嫌いな方をサッサと終わらせたいので、証明問題から始めたのですが、証明が難しくてわからない上に疲れてしまい、計算問題までたどり着きませんでした。 Sさんにはこういうことがよくあります。
嫌いなものを早く終わらせたい気持ちはわかりますが、途中でやる気がなくなり宿題が終わらないのであれば,自力でどうにかできる計算問題から始め、それだけは全部終わらせておくという手順の方が良いです。一つが終わっているだけで、ずいぶん気持ちも楽になります。そして、「証明問題は友達と勉強しよう」とか、「関連している動画を探して、それを観てからやろう」などの手順を考えます。
もう一つ「効率を高める」ための方法として、試験前や試合前などの本番前に、日々の取り組みを効率的に振り返ることができるような工夫しておきましょう。
間違ったところにマークやふせんをつけてておいたり、蛍光ペンで印をつけたりしておいてもいいですね。メモ帳などに間違ったところやできなかったことを記録していく方法もあります。スマートフォンを持っている場合は、メモ機能を使って記録したり、できなかった問題の写真や練習の様子を撮ったりしてもいいですね。
私が教えている学生さんの中に、英単語の課題を写真に撮って電車の中で見て復習しているという人がいました。「ノートや単語帳を出すのは面倒くさいけど、スマートフォンなら手軽だから」と話していました。これも効率良くする工夫ですね。科目や練習内容によってやり方は変わると思いますが、いろいろな工夫のアイディアがあると思います。
Step3 学習が終わった後
Step 3「学習が終わった後」では振り返りをします。Step 1、Step 2を経てきた上での振り返りです。しつこいですが、Step 1、Step 2があってのStep 3です。
生徒さんや学生さんを見ていると、Step 1、Step 2がうやむやな感じで、Step 3をしている人が多いようです。
Step 1、Step 2をきちんと行っていなかったり、あいまいだったりすると、結果、Step 3もゆるい振り返りになるので、自己調整サイクルがきちんと回らないということになってしまいます。
例えば、Step 1で目標を「頑張る」、計画を「スキマ時間にやる」というように、ざっくりと立てていたとします。すると、Step3での振り返りは、「頑張った」か「頑張らなかった」、それから「スキマ時間にやった」か「やらなかった」となります。
このような振り返りになると、次の(2巡目の)Step 1に対してもあいまいな感じとなり、成長につながる目標や計画が立てにくくなります。
もし、Step 1で「頑張る」の内容を詳しく、例えば「毎日20題の問題を解くことを1ヶ月間続ける」と目標を立てたとします。そうすると、振り返りの時に「20題できないときもあったな。20題はきつかったから、次は15題にしよう」や「1日おきにしよう」とか、「余裕で20題できたから、今度は25題にアップしよう」など自分がやった事実に基づいて、次につながる振り返りとなるわけです。
Step 1、Step 2があってのStep 3ということを、しっかり理解しましょう。
さて、Step 3で行うことは、主に2つです。
1. 立てた目標や計画に対する自分の状況を確認し、その理由も考える
2.その状況に対する自分の気持ちを確認する
Step 3-1 自分の状況を振り返る
立てた目標や計画に対して「どれぐらいできたか、どのような感じだったか」「その理由」を振り返ります。例えば、目標と計画を次のように設定していたとします。
目標:次のテストで20点アップする
計画:毎日20題問題を解くのを1ヶ月続ける
振り返りとして、以下のように現在の状況と理由を考えます。
例1► テストで22点アップして、68点だった。毎日勉強した成果だと思う。
例2► 20点アップまであと8点足りなかったけど、前のテストより点数は上がった。毎日やったけど足りなかったのは、基礎問 題ばかりしたからかも。今度は少し応用もしよう。
例3► 前回よりも下がってしまった。やる気がなくて、計画を立ててもしなかったからだと思う。自分は一人ではやらないから 友達に勉強に付き合ってもらおうと思う。
例4► 前と変わらない点数だった。部活がきつくて、計画どおりにできなかった。
これら4つの例は、実は、自己調整のトレーニングを受けた学生さんが書いた振り返りの言葉をもとにしたものです。なので、Step 1 や2を踏まえ、現在の状況と理由のある良い振り返りができています。「立てた目標・計画」に対してどうだったのか、具体的な数字やこれからの改善点なども書かれています。
簡単そうに見えますが、自己調整のことを知らないで書くと、以下のような振り返りとなることが多くあります。目標・計画はさきほどと同じとします。
例5► 平均点より少し下だった。次は平均点を超したい。
このような振り返りは、最も多く目にするものです。平均点に対する自分を見ていて内容的には悪くないのですが、残念ながら自己調整から見ると良くない振り返りです。
なぜなら、立てた目標・計画と全然関係のない視点での振り返りだからです。目標では「20点アップ」と決めていたのに、振り返りでは「平均点」のことを書いています。こうなると、立てた目標や計画は必要なかったですし、サイクルも回らないことになってしまいます。
例6► 周りの友達より悪かったからショックだ。次は負けないようにしたい。
この例も、自分が立てた目標とは異なる視点での振り返りとなっています。そして、この振り返りは人と比べる内容になっています。人と比較する振り返りをするとき、立てた目標を忘れていることが多いです。
STEP 1で目標や計画を立てたときに、パパっと立てたのか真剣に考えなかったのかわかりませんが、いずれにせよ、振り返りの時点で自分が立てた目標・計画を忘れていて元となるものがないので、その場で他人と比べることになってしまっているのです。
もし、周りの友達の結果がとても良くて、自分よりもずっと高い点数だとしたら、人と比較をすることで自信をなくしてしまうでしょう。やる気もなくなるでしょう。
でも、もし自分の目標や計画と比べて、少しでも前回の自分より良くなっていたら、周りの友達よりは悪くても、何らかの自信や達成感を感じるはずです。STEP 3の振り返りで、STEP 1や2のことが影響するというのは、こういうことです。
例7► それなりに勉強したので、前より少しは上がった。
この場合、立てた目標や計画は意識していたのだと思います。ただ、「それなりにした」が「どれぐらいした」なのか、「少し上がった」のが「どれぐらい上がった」のかわからないので、次のサイクルでの目標設定が難しくなります。
Step 3-2 気持ちを確認する
Step 3-1で振り返った状況・理由に対する「自分の気持ち」を考えます。ここも見える化して、記録しましょう。例1~4を使って見ていきます。
例1► テストで22点アップして、68点だった。継続して勉強した成果だと思う。
【気持ち】素直にうれしい。努力が報われてうれしい。
例2► あと8点足りなかったけど、前のテストより点数は上がった。毎日やったけど届かなかったのは基礎問題ばかりしたからか も。今度は少し応用もしよう。
【気持ち】上がったのはうれしい。でも、もうちょっといけるかと思った。
例3► 前回よりも下がってしまった。やる気が出なくて計画通りにしなかったからだと思う。自分は一人ではできないから、友 達に勉強に付き合ってもらおうと思う。
【気持ち】自分が悪いが、点数が下がってしまって落ち込む。でも、やらないといけないとわかっていてもあと回しにしている。
例4► 前と変わらない点数だった。部活がきつくて、計画どおりにできなかった。
【気持ち】やらなきゃと思っていたけど、疲れて寝てしまって反省。部活の練習がもう少し楽になるといいが、たぶん無理。
ここに示した「気持ち」も実際の学生さんが書いた例です。自己調整のトレーニングをしてきているので、振り返りに基づいた気持ちを表していると思います。
ただ、例3と例4の学生さんには、あともう一歩、自己調整が進むように話をしました。
例3の学生さんの「点数が下がって落ち込む」という部分に注目します。自己調整がうまく進まない人は、結果だけを見てしまうことがよくあります。
自己調整が進む人は、結果よりも「計画をちゃんとしたかどうか」を気にします。結果は、それまでのプロセス(道のり)の後に出るものだと考えているのです。「ちゃんとしたプロセスを経てきたら、ちゃんとした結果がついてくる」という考え方です。
例3の学生さんには、結果よりもプロセスを大事にするように話をしました。ワクワク感を感じられて、かつ実行できる計画を考え、少しずつでも「やった」という事実と自信を持って、次の試験に臨むことが大事です。
例4の学生さんについては、「部活の練習がもう少し楽になるといいが・・・」というところが気になりました。計画通りにできなかった理由を、多少なりと部活のせいにしているからです。
実際、部活がハードで疲れてできなかったのだと思いますが、自己調整が進まない人の場合、できなかった原因を自分以外の人や物事のせいにしてしまうことがあります。自分以外のことに原因があると考えてしまうと、それが無くならない限り、自分の計画が進まないことになりますね。
例4の学生さんと話しをしたら、計画はその勉強のことだけを考えて立てたそうです。部活や疲労のことは考えなかったと言っていました。
私たちには毎日、しなくてはならないこと、したいこと、いろいろありますね。その中でどうするかなのです。先にも書きましたが、「そのことだけを見て計画を立てない」こと、自分の生活や体調や予定やいろいろなことを考えて調整することが大切です。