情報通信工学科オリジナルサイト 2019年度情報工学部教育業績賞受賞者報告会開催(情報通信工学科 糸川 銚 教授)

2019年度情報工学部教育業績賞受賞者報告会を開催しました。

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受賞者:情報工学部 情報通信工学科 糸川 銚 教授
日時: 2020年7月15日(水)15:00~15:45
開催形式:Microsoft Teamsによる遠隔ライブ型
参加者:16名(教員12名、職員4名)
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【概要】
講演会では、まず本学に赴任されてからこれまでのご自身のご功績を振り返られ、まず一つに、情報工学部が設置された当時、数学の教職課程申請に深く携わる中で、各学科の具体的な数学教職課程のカリキュラムを組まれ、調整に走り回られたたこご経験についてのお話がありました。また、もう一つのご功績として、微分積分学の全く新しいカリキュラムを考え出されことを挙げられ、この講演会では、糸川先生が8年前に考案され、実践してこられた学部1~2年次向けの微積分の教授法についてご提案がありました。

糸川 銚 教授

まず、今の高校の微分積分について、大学入試に向けてテクニックを教えるだけに留まっており、特に積分については、集積法がなぜ面積や体積につながるのかについてさえ十分な説明が行われていないという状況にあるとのお話がありました。こうしたことから、本学をはじめ、多くの国内の工学系大学に共通すると思われる問題の一つに、1年生は積分というものがどういうものか、よく理解しないまま入学するので、その応用ができないという問題が起こっていること、また、本学の学生については、高校で微分積分を学んだことが無い学生が一部存在することが問題として挙げられました。一方で、大学での専門教育では、1年生は高校である程度の微分積分を学んでいるという前提で授業が進められるという状況があり、そのギャップを埋めることが数学教員に求められているとのお話がありました。

微分積分のカリキュラムでは、まず微分を一通り教えてから積分に進むというのが一般的ですが、情報工学部においては、エントロピー計算や平均値の計算などが例として挙げられるように、専門への応用という点では微分より積分の方がはるかに重要となっています。そのため、1年生前期終了時点で、積分学を一通り学んでいるようなカリキュラムができないかを考える必要があり、検討を進める中で、積分学から微分学を考えるという1冊の啓蒙書に出会い、積分学を先に教えるという方法を正規のカリキュラムに取り入れられないかという発想に繋がったこと、そしてこの積分学から教えるという教授法をここに提案したいとのお話がありました。
また、微分積分学の歴史を紐解くと、積分学の方が微分学よりの千年近く前に始まっており、積分学の方が人間の頭脳にとって自然な問題であるとのご紹介もありました。

続いて、大学時代の恩師の持論である「極限のリミットで一番分かりやすいのは数列のリミットである」をヒントに、1年生前期の一番始めには、数列のリミットから教えていること、あまり計算には力を入れず、それよりも概念が分かるようにすることが重要と考えていること、原始関数ついては後の微分の授業で説明をするとして、定積分の区間加法性と不定積分等について説明をした上で積分表を渡していること等についてご紹介がありました。また具体的な教授法に関し、微分をあくまでも1次近似として教えている参考書籍の紹介を交えながら、情報工学部の1年生が学ぶべき積分の内容として、積分の2つのリミット(上ダルブー和、下ダルブー和)とリーマン積分との関連やベルヌーイの法則、1次置換積分法等についてホワイトボードを使ったご説明があり、こうした教授法を8年前に考案し、これまで実践してこられる中で、学生にも受け入れられてきたとのお話があり、本学の情報工学部に適合する微分積分カリキュラムとして、改めてご提案がありました。

ご講演の最後には質疑応答が行なわれ、従来の微分から始めた方法と比較して学生の最終的な理解度について質問があり、理解が劣っているとは思わないとのご回答がありました。また、授業での図的な説明についての質問には、積分を学ぶ最初のモチベーションに図を使うことは非常に効果があるとのご回答があった他、1次近似を理解していない学生への対応などについてのお話があり、ご講演終了の時刻となりました。

ご講演の始めに、糸川先生より、考案し実施している全く新しい学部1~2年度向きの微積分シラバスとその教授法を、今後の情報工学部の微分積分学の教授方のモデルとして、特に数学ご担当の先生方に残していきたいとのお話がありましたが、今回の講演会は、今後、福工大の数学教育を担っていかれる先生方に対して、しっかりと糸川先生の数学教育に対する熱い思いと教授法が引き継がれる場となりました。